プレパラキス

OZでの自分は、社交的で好戦的

黒い毛並みの人型をしたひょろ長い狼は、自分のナマエで呼ばれる別次元の生き物

OZでの自分は、バトルで何百人をもいとも簡単に投げ飛ばし頂点に近い存在

けど現実は違う

ゲームでは無敵でも、画面から出れば何の取り柄もない何の変哲もないガキなんだ

「またカズマに負けたよ」

K.Oと画面を埋める文字から目を逸らして、キーボードから指を離す

キングカズマとのバトルに集中していたためか、若干汗ばんだ手をズボンに擦る

カズマはまったく容赦ねーんだから

画面の中で、声援を受ける白ウサギが床に倒れる黒い狼の手をひいて立たせてくれる

いつもの食物連鎖的に逆転した光景を横目に、近くにいる人物に愚痴る

「わびさん、また負けたー」

縁側でカラカラ間抜けな音を立てる扇風機に当たっている背中を見つけ、勢いを付けて飛び込むと

「シシッ、ナガレ、まだそんな子供の遊びやってんのかよ」

と、ひょろ長い骨張った背中が小刻みに揺れた

「カズマ程ではないけどサポーターも付いてるし、これでも結構稼いでるもん」

肩から顔を出すと、乱暴に頭を撫でられる

わびさんは嫌味ったらしい言い方しか出来ないし、つくづく不器用な人だと思う

一時世間を騒がせた彼の作ったAIの名前は、恐らく彼のコンプレックスそのもので

大好きな婆ちゃんが死んだときだって、何だかんだで誕生日のお祝いして、プレゼント渡そうとしてた

全部裏目に出てたけど、それがこの人らしい

なつき姉は、そんなでもわびさん大好きだったけど。

そういや、ケンジさんとうまくやってんのかな

「カズマは強いからな」

しみじみと、少し含んでわびさんが言う

なんかそれが気に入らなくて、

「あー、カズマの肩持つ。自分へそ曲げました」

機嫌とるなら今のうちですけど。とクルクルうねる癖の強い髪をひっぱると、馬鹿言えと一蹴された

仕方無しに、ちっ。わざとらしい舌打ちを鳴らして背中から離れようとすると、右手を捕まれ引っ張られる

バランスを崩してわびさんの横に転がると、額にやわらかい感触がした

ゆっくりと離れていくしてやったりな笑顔を見つめながら、感触をなぞるように額を触る

「あれ、わびさん、今ちゅーしました?」

「ナガレ、へそ曲げてんだろ?アイスくらいなら買ってやってもいいぞ」

シシッと独特の笑い声をもらして、ニヤニヤしながら立ち上がる背中を見送る

なんでそんなとこだけ器用なんだ。

とりあえずカズマにまたあとで連絡するとだけメールを打って、わびさんの歩いていったほうへ走る

そういや、ラブマシンもあの笑い方してたや。なんてどーでもいいことを考えながら、見えた背中に飛び付いた

画面越しのアバターでなく、何の実績も特技も持たない自分

その自分とも自然体で接してくれるわびさんは、不器用だけどいい人だ

だから好き

すっきり機嫌はなおってますが、アイスは是非買ってください




題名はプレパラートにキスを略してみた←

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