口下手

「ナガレ、君は頭がおかしいんじゃないかな」

先程からポケモンの卵を孵化させるために自転車で走り続ける背中にそう声をかけると、勢い良く戻ってきて砂塵を巻き上げながらブレーキを掛けて急停車した

それを平然と眺めていると、自転車からおりてこちらにズンズンと迫ってきて一言

「うるさい」

しばらくの間、ひどく顔をしかめて色々言いたそうに口を開閉させていたが、結局はその後に言葉が続く事はなかった

なんだ、本人も気にしてたんだ

頭がおかしいんじゃないならキチガイだねと追い討ちをかけると、何も言い返す言葉が思いつかないのかそもそも言い返すつもりもないのか、少し目をそらしてさらに黙り込む

「そうでなきゃ、色違いなんて粘らないでしょ」

「……」

俯いた顔をのぞき込むと何か言いたそうな様子で、やはり口を開かない。いつものことだけど。

こうみえて、僕は結構彼女を気にかけて心配してるつもりなんだけどな

何を言ってもナガレは黙って何か言い淀んで、しばらく僕を見つめた後に諦めてしまう

話したいことがあるなら、別に怒ったりもしないし待っててあげるから話して欲しいのに。なんて言ってもそう簡単には口を利いてくれないだろうけど

「もしかして、誰かにかまって欲しいの?」

色違いのポケモンは物凄く珍しい為、持っていればそれ見たさに人があつまってくるだろう。

中には金銭目的で色違いのポケモンを求める人間もいるだろうが、彼女はバトルでほぼ負けたところを見たことが無くファイトマネーを稼いでいるからお金には困っていないだろうし
コレクションとして集めているにしては執着がない…これは石コレクターとしての僕の勘だけど

「生まれてこのかた、人付き合いで苦労もしたことない坊ちゃんにはわからないよ」

やっと喋ったと思ったら悔しそうに吐き捨てて、僕に背を向けて歩きだす

自転車に跨がってペダルに足をかける姿も随分見慣れたものだなぁと全く関係のないことを考えながら

「図星なんだ」

と言ってみる。きっと答えなど無く、このまま走り去ってしまうんだろう

大した期待もなくスタンドを足で蹴り飛ばすのを眺めていると、黙りを決め込むとばかり思っていた彼女が珍しくはっきりと、しかし聞こえようが聞こえなかろうがどうでもいいと考えていたのか呟くように

「…私を見てて欲しいんだ。私だけを」

「?」

なんとか聞き取れた言葉にきちんとした主語はなく、ひどく抽象的で曖昧…続きをしばらく待つがこれ以上は伝えてくれるつもりもないらしい

首を傾げた僕を見て漸く笑った彼女は、孵化途中の卵を優しく愛しそうに撫でる

「御曹司にはわからないよ。」

人気者のあなたにはね。と突き放したように言われて、少しムッとしてしまう。いつも話さないのはそちらのくせに、僕が悪いのか

卵を撫でるだけの彼女をしばし見つめる…あれ?

あぁなるほど

「ナガレ、寂しいなら僕が相手してあげようか」

いつものようにからかい混じりに本心を混ぜて言えば、今度は相手がムッとする。

しかし、それが不快感ではなく今し方現れた優越感を深くしただけだということを彼女は知らないんだろう

「言ってろ」

そういいつつ、自転車を走らせる気配がないのは、いつも本心を吐き出さないナガレなりの必死のアピールなのかもしれない

そう考えると、優越感もだが愛しさも強く覚える

視線を合わせているだけで段々と頬を赤らめていく様子を眺めながら追い討ちに

「僕は本気だよ、ナガレ。」

と告げれば、目を見開いて一気に耳まで赤く染まる

パクパクと何度か何か言いたそうに口を開閉させてから、絞り出すように

「…私が馬鹿やってるうちは、どっかのバカが見学にきます故」

と言いおいて、照れ隠しなのか猛スピードに走り去っていく背中を見送る

卵は撫でていたからか抱えているが、自転車を忘れて行ったことに彼女は気がついているんだろうか

支えを失いゆっくりと倒れていく自転車を見つめる

「それって」

前進したってことでいいのかな

ガシャンと、自転車が大きな音を立てた



☆☆☆
どうしよう自転車おいてきちゃったけどあんなに笑ったダイゴさん初めて見たし顔熱いし恥ずかしいし構って発言した気もするしいつも何話していいかもわからないのに今なんてなんて声をかけていいのかあぁあああぁぁぁあぁぁ

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