一線を越える

燐は悪魔の能力に目覚めてしまい、息子を守るためにシローが死んだ

その頃から段々と、燐を守るためにと頑張っていた雪男は、自分の信念に雁字搦めになるように心を閉ざし始めたように見える

武器の手入れと射撃の腕ばかり上達しやがって、中身は案外幼い癖に

兄弟揃って他人に甘えることを知らないのは、親譲りなのか。

「よぅ、大変だねぇ」

「あぁ、ナガレさん…そうでもありませんよ。」

いつもの挨拶として口からでた言葉は、軽く流される

部屋に押し掛けても勝手にベッドに座っても、何度も来るうちに何も言われなくなった

燐の担任になった日にも押し掛けて、いつもみたいに言えば、あいつは何かを決意したように笑ったんだったか

変なとこをぐるぐると悩んで躓きやすいのも、この兄弟の特徴と言えよう

相談くらいしてくれないものか…

「君達兄弟はよく似てる」

半分くらい嫌味として言えば

「僕は兄より馬鹿じゃありません」

だと。即答しよった、うむ

「頭はかたいけどね」

とこちらも即答してやれば、ぐっと呻いて押し黙る。なんだ自覚あったのか

もしくは、他人にも言われたのか…シュラちゃんあたりじゃ無かろうか

女の子に冷たくされるのも、シローゆずりなのか…だが一応言っておくとシローはモテてた

「燐は、シローによく似てる」

「……。」

武器の手入れをしていた雪男の手が止まる

「雪男は、私に似たな」

「嫌ですそんなの。ナガレさん似だなんて」

作業が再開される。変に素直な奴だ

んで、同時に素直じゃない

「酷いな」

「僕は生憎、ナガレさんの冗談に付き合うつもりはありません」

漸くこちらを見て、にっこりと笑う

随分と大人びてまぁ

飯はちゃんと食べてんの?睡眠は?体調は?と尋ねるが、すべて大丈夫とだけ返される

燐と違って大人びている分、我慢するから心配になるんだ

この世界で溜め込む奴は悪魔落ちし易いと言うのもあるが、家族のように育った兄弟を気にするのは当然じゃなかろうか

燐と雪男、二人に違う意味を持つ好意が向き始めていても…

「無理すんなよ」

結局出たのは、いつものお約束となった言葉だった

無理をしなきゃ生きていくのすら難しいのを知りつつ、なんて間抜けなことか

雪男も、いつものように笑いながら善処しますとだけ言うんだろう

もう少ししたら、燐が帰ってくる

帰ろうかと立ち上がったとき

「えぇ」

ナガレさん、いつもありがとう。だなんて馬鹿正直にお礼を告げられたものだから、思わず動きを止めて雪男を見る

ニッと笑った顔がシローに似ていて、思わず苦笑してしまう

励まされていたのは、私の方だったか

「どーいたしまして」

ゆっくりと立ち上がった雪男に、髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜられる

成長したのは、体だけじゃないらしい



☆☆☆
「ところで、何してるんですか?兄さん」
「あ、燐。いたのか」
「お、おう」
雪男が部屋の扉を開けたら、気まずそうな燐がいた
お前も、空気が読めるようになったんだな

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