この先…
帰ってきて早々、ノボリ兄さんは部屋を見渡して
「クダリは今日も外食でございますか」
だって。
まるで、二人きりになるのを避けるみたいに言うから、少しだけ泣きたくなった。
「そうですよー」
そう平然と答えた私の声は、どこか冷たい
しかし、自らも聞き慣れた飄々とした声は、いつものように部屋に響いただけだった。
「では、今日はあなたの好きなものにしましょうか」
最近は聞き慣れたその言葉に、にいさんが好きですと答えたら、冷たく一言
「食べ物の話でございます」
だって。今日のにぃさんは、イライラしているのか、言葉の節々に棘を感じる
「……小雨ちゃん、出ておいで」
なんとなくいたたまれなくなって、ニョロトノの小雨ちゃんを出すと、ノボリにぃさんは少し気まずそうな顔をしていた
あ。そうなんだ……。
「……希望が無いなら、今日は餃子に致しましょう」
言うやいなや、テキパキと準備を始めた背中を眺める
最近は背中を眺めることが多い
クダリ兄さんと、話をしてからな気がするが、きっと期待のし過ぎで私の気のせい
「デザートは杏仁豆腐とパフェと豚まんで」
豚まんはデザートではありませんよと、背中が小刻みに揺れる
先程の気まずさが嘘みたいに消えたのを確認してから、自らその空気をぶちこわす私はなんて間抜け。
なんて最低なんだろうね
「にーさんにーさん、クダリ兄さんがね、ちゃんと答えを聞けって」
「何の、」
答えを、ですか?と、振り返ったにぃさんと向き合う。
「にーさんが好きです。ノボリ兄さんが好き」
「私も好きでございますよ」
すぐに返された言葉に、首をゆっくりとよこにふり、震えだした手を隠すために、小雨ちゃんを抱える
「違う」
兄弟じゃなく、家族じゃなく、もっと特別になりたいのです
「傍にいるだけじゃダメ。キスもえっちな事もしたい。にぃさんの子供生みたい。男の欲望みたいな言い方だけど…」
私が最後まで言い終える前に真ん前に立ち、近距離で見下ろしながら、ノボリにぃさんはそれ以上言うなと言うように首を横に振る
「私は」
ダメ。先に答えを聞いたら、私は死んでしまう
「聞いてノボリ兄さん。私は、にぃさん無しに生きれない。愛してる」
私は、否定されたら生きれないです。死んじゃいます。と、言い終えた
小雨ちゃんが、心配そうに私を見上げている
小雨ちゃんか私の気持ちか、雨音が強くなる。このまま、世界の音が聞こえなくなってしまえば良いのに
「愛しております。」
「……。」
「また沈黙ですか、ノボリ兄さん。愛を語るは乙女の仕事じゃありませんよ」
いつかと同じ沈黙を、雨音が埋める
世界の時間が、このまま止まってしまえはいいのに
「私は」
私は…と、にぃさんが繰り返す
クエンがボールから出てきて、雨音が消えた
ノボリにぃさんの声だけが、空気を震わせる
「貴女様のこと」
☆☆☆
帰ってきたクダリ兄さんが、すべてを悟った様に、頬をゆるませた
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