最強の人

雪山の一番頂上に、最強のトレーナーがいるんだって

それはただの噂でしかないんだけど、私にとってはリザードンと共に全国の雪山を巡るに至るほど興味のある噂だった

最強の名を欲しいままにする、姿も名前も知らないトレーナーだなんて、面白いじゃないか

各地方を周り、辿り着いたのは名前の通り白銀に覆われたシロガネ山

吹雪の中に、燃えるような赤い服を着た青年が立っていて、彼が最強なんだと本能が叫んだ

なんたって、防寒着も突き抜ける寒さのなか、平然と半袖で立っているんだもの。すごいよね

実は死んでるんじゃないかとか、仙人とか神様だとか言われているだけあるじゃないか

だいぶ想像したより若いけれども、ここの景色に違和感なくある存在感が、彼の実力を物語っているようだ

さらさらの黒い髪から覗く、赤い鋭い目がこちらを射ぬく

ぞくぞくしてきましたよ、これは

お互いに無言でボールを構え、どちらともなくバトルを開始させた

胸を高鳴らせて、興奮に笑みを作れたのは一瞬だけだったけど

「うそ…」

終わりは呆気なく、荒れ狂う吹雪の中、膝を付いて座り込む

最強は、パートナーと思われるピカチュウ一匹で私の手持ちをすべて戦闘不能へと追いやった

吹雪の中という慣れない環境でのバトルだったとはいえ、惨敗したのは久しぶりすぎて悔しい

様々な地方のチャンピオンにだって勝てることもあったし、ここまで一方的にやられたりしなかった

自分達の実力を過信していたんだろうか

この場ですぐに今のバトルについて分析したいところではあるが、それをしたら私は氷像になってしまう

仕方なしに下山しようと立ち上がると、青年に腕を取られた

意外に手が暖かい

「…おいで」

膝まで沈んでしまう雪に足を取られながら、強い力に引かれて歩く

「ちょっと、何処へですか!?」

あっち。と指された先は白銀のカーテンで何も見えない

「負けたんで帰ります。私、下山しますからぁ」

「手持ち戦闘不能でしょ」

「私のリザードンなら大丈夫!」

「ダメ。今日は吹雪止まないよ」

風邪引くから早く。と促され、何だかんだで彼に続く

確かに吹雪は止む気配がないし、リザードンも普段ならともかく、瀕死状態で飛ばさせるのは酷というものだ

彼の帽子の上から見下ろしてくるピカチュウを眺めていたら、あと僕はレッドだから。と付け足された

それは、あなたのお名前でよろしいんでしょうか…


「ピカチュウ、君すごく可愛いね、強いしいい子だね」

「どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

レッドさんからココアを受け取ると、レッドさんのピカチュウが鼻をひくひくさせてカップを覗き込む。可愛い

レッドさんは、シロガネ山に口をぽっかり開けた洞窟の中で生活しているらしい…中々暖かいし快適だ

「レッドさんって、イメージ違いますね」

「?」

「もっと強さにストイックっていうか、冷たいイメージがありました」

最強最強言われているから、毎日鍛えまくっているのかと…暮すには些か過酷な環境ではあるが

ふーん。とだけ答えたレッドさんは、無表情でお湯を沸かし、ココアを量産している

私の分を優先してくれたらしい。ピカチュウにもココアが渡される

「興味なさそうですね」

「強いトレーナーが来ればいい」

また来てくれるよね?と首を傾げた姿が、思わず見とれてしまうほど絵になっていて、慌ててココアに口を付ける

少し顔や体が熱いのは、ココアのせいだと思いたい

可愛い人、と言う意味でも噂どおりな気がするよ



久しぶりにシロガネ山までトレーナーが来た

自分を探してここまで来たんだって言うだけあって、なかなか強かった

手持ちが倒されるにつき、悔しさとともに期待を灯した目が輝いていて
自分がいつの間にか忘れた何かを持っている彼女に、惹かれていくのを感じた

久しぶりに心の底から楽しんで、興奮してバトル出来たんだから、簡単には帰してあげない



☆☆☆
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