しろいの

バトルサブウェイのボスのうちの一人であるクダリは、今日もノボリに休憩室から追い出され、特徴である白のコートを翻してダブルトレインを目指していた

しかし、スキップでもしそうなその歩みを、後ろから引き留める者がいた

振り返ると、ふわふわの白銀の髪を持つ少女が服を掴んでいる

クダリはいつもと変わらない表情でまじまじとそれを眺めているように見える

しかし彼はいつもと変わらない笑顔ながら、内心では少し困惑していた

小さな手で必死にクダリを引きとめる彼女は、不安そうにしながらも無言で、涙を零していたのだ

このギアステーション内で親やポケモンとはぐれた、それとも別の理由なのか

残念ながら、尋ねてみようと身を屈めると、怯えたのか唇を引き結んでしまった

仕事柄、迷子の相手をすることの多いクダリは、こうなってしまった子供を喋らせるのは難しいと知っている

しかしそれでも、ポロポロと涙を流す少女は、彼の白いコートの裾を掴んで離す気配が無い

周りを見ても、彼女の保護者らしき人物の気配もない

「どうしようかな…」

そう呟いた彼を気に留めて足を止める人はおらず、無関心に通り過ぎていく

ノボリに休憩室から追い出されたばかりではあるが、この状態なら言い訳にもなるだろうと、行き先をダブルトレインから休憩室に変更し立ち上がる

コートを握る少女の手を優しく解いて、自分の手を繋ぐ

ゆっくりとした歩調で、少し身を屈めて時折ちらちらと隣の様子を確認しながら歩く姿は、彼がこの状態に慣れていると言うことだろう

小さな子供やポケモンと関わる機会が多いのを伺わせる

彼は慣れたもので、見たものを安心させる、人のよさそうな笑顔を浮かべている

この光景を見たら、兄のノボリやサブウェイ常連のトウヤやトウコは、何処から誘拐してきたのかと騒いだかもしれないが、幸いにも知った顔は傍にいない

しっかりと少女が歩くのを確認してから、少しだけ歩調を早くする

上記の顔ぶれに今の状態で出会うのは非常に面倒なのを、クダリは長年の付き合いで嫌というほど理解している

一体、クダリと言う男にどんな評価を持っているのか…

いつだか迷っていた親子連れが居たため、話し掛け道案内をしていただけだったのだが、次の日にはサブウェイ内にその話が言い触らされて蔓延しており

さらにはどう内容が屈折したのか、『クダリさんが子供連れの女性を口説いて、付き合うことになった』とまで話が飛躍し勝手に拡散されていた

その時は不意討ちを食らうどころか、テクニシャンチラチーノに連続技を食らったような衝撃だったと後に彼は語る…

早く休憩室に行きたいのだが、少女の歩幅と周りの人込みがそれを許さない為
クダリは一度近くのベンチに腰掛け、休息をとることにした

「キミ、どうして泣いてるの?迷子?」

ポケットから取出したクッキーを手渡すと、小さな手がそれを受け取った

少女は涙を流し瞬きを繰り返しながら、首を横にふるふると振った。

迷子では無いらしいが、涙の原因は未だに解明されていない

クダリは、困ったなーと内心呟きながらも、笑顔のまま少女が落ち着くのを待つ

しばらく沈黙だけが流れていたが、少女がおずおずとクダリを見上げる

お菓子を手に、少し戸惑ったようにクダリの笑顔と手のなかの物を交互に見やる姿は、ポケモンがトレーナーの許しを請うのと似ていた

第三者が居たら思わず微笑んでいただろう

「食べていいよ」

まだいっぱいあるよ!と言ってやると、控えめに微笑み、嬉しそうにお菓子を頬張り始めた少女に、クダリは笑顔を深める

耳に入れたままだったインカムから、仕事上のパートナーであり、双子の片割れであるノボリから連絡が入る

ノボリ曰く、迷子ランプラーを保護したらしい

もしやと思い、クダリが

「迷子のランプラーを見つけたらしいけど、キミ、その子を探してたの?」

と尋ねると、少女はにっこりと笑って大きく頷いた

「キミ、笑うとすっごい可愛い!」

「?」

たまには迷子の保護もいいかもしれないと、クダリは少女の白銀の髪を優しく撫でた



☆☆☆
対になる話と言うか、同じシチュエーションで性格が違えばこうなる。みたいな

個人的には楽しかったです

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