くろいの
バトルサブウェイのボスのうちの一人であるノボリは、今日も職務を果たすために、特徴である黒のコートを翻してシングルトレインを目指していた
しかし、颯爽としたその歩みを、後ろから引き留める者がいた
振り返ると、黒い小さな浮遊するものが、チロチロと炎を揺らしながら服を掴んでいる
ノボリはいつもと変わらない表情でまじまじとそれを眺めているように見える
しかし彼はいつもと変わらない無表情ながら、内心では酷く困惑していた
黒い小さなそれは、不安そうにしながらも無言で、黄金色の瞳から涙を零していたのだ
このギアステーション内でトレーナーとはぐれた、それとも別の理由なのか
残念ながらポケモンの言葉を解明しようと動く人の数は星の数ほどいれど、解明されたという事実はない
つまりは理由を尋ねようとも、その答えを知るすべが無いのである
ポロポロと涙を流すランプラーは、彼の黒いコートの裾を掴んで離す気配が無い
周りを見ても、トレーナーらしき人物の気配もない
「どういたしましょう」
そう呟いた彼を気に留めて足を止める人はおらず、無関心に通り過ぎていく
しばしその場で顎に手を添えて考え込んでいたが、シングルトレインに向いていた足先が元来た道へと引き返す
当然、コートを握るランプラーもそのまま浮遊し続く
ゆっくりとした歩調で、時折ちらちらと後ろを確認しながら歩く姿は、慣れているとは言いづらく
彼が小さな子供やポケモンと関わる機会が少ないのを伺わせる
そう思えば、彼の無表情も若干ながら狼狽えているように見える
この光景を見たら、弟のクダリやサブウェイ常連のトウヤやトウコは、指差して盛大に声を上げて笑っただろうが、幸いにも知った顔は傍にいない
しっかりとランプラーが続くのを確認してから、少しだけ歩調を早くする
上記の顔ぶれに今の状態で出会うのは非常に面倒なのを、ノボリは長年の付き合いで嫌というほど理解している
なんたって他人のちょっとした失態を一ヵ月は笑い続けるような奴らなのだ
いつだか迷子に話し掛けて、顔が怖いと泣かれたのを見られたとき、次の日にはサブウェイ内にその話が言い触らされて蔓延しており
さらにはどう内容が屈折したのか、『ノボリさんが結婚し子供を連れてサブウェイに来ていた』とまで話が飛躍し勝手に拡散されていた
その時は猫だましを食らうどころか、トゲキッスにまひるみ戦法を食らったような心境だったと後に彼は語る…
人込みを避け、関係者以外立ち入り禁止と書かれた区域に入る
彼が着いたのは、職員の休憩室だった
「さて、あなた様がどのような理由で泣いてみえるのかを教えていただけませんか?」
棚から取出したポケモン用のお菓子を手渡すと、黒い小さな手がそれを受け取った
ランプラーは涙を流し瞬きを繰り返すだけで答えない。
答えたとしてもノボリに言葉は伝わらないのだが、彼の性格上わかっていても一度は確かめておきたかったのだろう
しばらく沈黙だけが流れていたが、ランプラーがおずおずとノボリに近づいていく
お菓子を手に、少し戸惑ったようにノボリの無表情と手のなかの物を交互に見やる姿は、子供が親の許しを請うのと似ていた
第三者が居たら思わず微笑んでいただろう
「どうぞ、」
お召し上がりください。と促され、嬉しそうにお菓子を掲げ始めたランプラーに、ノボリは無表情を緩める
耳に入れたままだったインカムで、仕事上のパートナーであり、双子の片割れであるクダリに連絡をいれながら、新たなお菓子を渡してやる
たまには迷子の保護もいいかもしれないと、普段のかたい表情を崩したノボリはランプラーを撫でた
☆☆☆
こう、無意味ながらにほっこりしたい
たまに真面目に文章書くと疲れるなぁ…
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[mokuji]
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