蚊帳の外と嘘つき男

えと、これなんて苛め?

博物館から飛び出したら、ツタージャ少年に王子様が絡んでいた

焼林檎がまるで王子様の従者のごとく、 後ろに控えているんだが…

なに、気に入ったの?焼林檎的に、王子様の後ろにいるの気に入ったの?

しばらく王子様とツタージャ少年との睨み合いを見つめていたが、焼林檎はこちらに気が付いて近寄ってくる

「焼林檎、N様といるのは楽しかったか?」

『――!』

襟巻きのようにふわふわした首もとを撫でると、嬉しそうに鳴いてくれる

よしよし、あとでブラッシングしてやる

焼林檎がいなくなったのに気が付いたのか、キョロキョロと辺りを見回していた王子様と目が合う

少しだけ唇の端を上げた彼は

「焼林檎が、最近カナタが運動不足だから心配だって言ってたよ」

と早口で語る

目に光がない状態で笑われても、若干怖いのだが…とりあえず

「…個人情報もらすなよ、焼林檎」

ツタージャとそのトレーナーが、似たような笑みを浮かべる

そーいや、王子様とツタージャ少年は二人ともポケモンの話が解るんじゃなかったか

「焼林檎…お前、他のこと話してないだろうな」

『――。』

「インスタント食品ばかり食べるのも心配って言ってますよ」

ツタージャ少年が同性にしておくのが勿体ないくらいに綺麗に、花が綻ぶように笑う

内容には若干涙が出そうだが。色んな意味で

心配してくれるのは嬉しいんだがな

マスカットがボールから出てきて、なにやら王子様と話を始める

また余計なことを言われなきゃいいがな

楽しそうなマスカットをぼんやりと眺めていると、ツタージャ少年が俺の方に歩いてきた

「カナタさんは、彼とどんな関係なんですか」

彼、と言われたのは緑の髪を楽しげに揺らす王子様のことだろう

ポケモン相手だから、やわらかな笑顔を浮かべている

「知り合い、かな。」

プラズマ団最高権力(表)と、ま反対の下っぱですとは言えず、曖昧に笑う

ツタージャの視線がものすごーく痛いが、目を逸らす

『――、―――、――?』

「え、えと」

ツタージャが鳴いて、それがなんと聞こえたのか少年が狼狽えはじめる

しばらく何か言い淀んでいたが、緑の尻尾で背中をバシバシ叩かれて、少年が口を開いた

君が誰だか、何をしていたのかしらないけど、何をそんな怯えてる訳?と彼の口から出た言葉に、笑みが消える

ツタージャは真っすぐにこちらを睨んでいる

焼林檎が空気を感じ取って、焦ったように飛び回る

「何に怯えてる、ねぇ。」

逃げ出した場所?食えない上司?縋るポケモンの目?王子様の何かを思い出す瞳?

「さぁ?」

笑みを浮かべるが、上手く笑えたかは知らない

ツタージャが呆れたように鼻を鳴らす

俺が恐いのは、俺がどれだけ汚い人間かを他人に知られること…

腰に納まった4つ目のボールを撫でると、カタリと揺れた



☆☆☆
パートナーに言葉を代弁してもらうと、カナタから一瞬笑顔が消えた

飄々としているようで、受け流し切れず
何かを引きずって、何かから逃げている
適当に笑って、そのくせ嘘を吐くとき少し困った顔をする

何にしても中途半端なカナタという男は、パートナーが気にするN程ではないが気に入らない


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