フラグクラッシャーと忘却の彼方
少し埃っぽくて僅かにすっぱい独特の香りと、厳かで口を閉ざしていたくなる雰囲気
適度に薄暗い照明に照らされるガラス越しの貴重品
数多く骨や化石が並ぶここは、何を隠そうシッポウの博物館
目的は、残念ながら観光ではなく、この建物の間取りを調べてこいとのご命令だ
なるほど、博物館の奥にジムを構えることにより、防犯もバッチリというわけね
一瞬だけ王子様と合流した気がするが影も形もないので、たぶん幻覚だったんだろうきっとそうだ
かつてこの国の王となった人物達の絵や文献、彼らが記した文字などが、細かい解説とともに並ぶ
解読されていない文字もたくさん並んでいるが、その内の一部にはきっと、プラズマ団のあの親子に関する記述もあるんだろう
「『王はポケモンの言葉を理解し、民を導きました』ねぇ…。」
そういや、ゲーチス様はポケモンと話せるんだろうか
あの人は王子様と違って、人間にもポケモンにも冷たい気がするんだが…
髪の色とか身長からすると血の繋がりがそうとう濃い気がするんだけど…そーいや母親はどんな人なんだろうか
見るどころか、話題に上がったこともない気がするのだが
あくびを噛み殺し、興味を無くしたのか俺の髪の毛を引っ張り始めたマスカットの手を掴む
そしたらそのまま、別の展示物のところまで連れていかれた
見上げると、巨大なドラゴンポケモンの骨が展示されている
「あー、お前こーゆーの好きそうね」
『――!』
巨大なドラゴンポケモン…恐らく通常より発育の良かったカイリューのものだろう…
骨の周りを飛び回るマスカットは子供のように目をキラキラさせている
「マスカット、そろそろ間取りの確認も済んだし行くぞ」
『――!――!』
「あー、あと少しだけだぞ…」
スタッフルームや隠しカメラの位置をメモに書き入れ、パートナーに声をかけると、不満そうに鳴き声を上げられた為ベンチに腰を下ろす
骨をよじ登るかのように飛び回るマスカットを見た何人かが、クスクスと笑っていた
強制的にボールに戻してもいいが、次に出したときの機嫌が急降下するからなー
退屈になってしまったため、博物館を見渡すと、端に置いてある何の変哲もない乳白色の玉が目に入った
あれは歪みのない円に、あとから削られたとは考えにくい窪みがあったはずだ
リゾートデザートで拾った、物質も利用目的もわかっていない石で、詳しいことは調査中とかなんとか
何もわかりません解析中ですって、歴史的物品にはよくある説明文句だと思うんだが、何かが引っ掛かる気がする
なんか、どっかで見たことがある気がするんだが…
どこで見たのか思い出す前に、パートナーの楽しそうな声と、ボールからクリームの焦った声が聞こえ、慌てて立ち上がる
『――!』
「待てマスカット!待てだ!待て待て待て待て待て展示品は持ち帰らんぞ!!」
☆☆☆
マスカットのせいで逃げるように退散したけど、間取り図が完成したのだけが救いだったかな…
この間取り図でどんな悪事が働かれるかは、考えないことにした
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[mokuji]
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