委ねる未来
育て屋に盗られたボールを返しに行くと、カウンターの後ろで、縄ぐるぐる巻き状態の黒髪少女が帰りを待っていた
そういえば色々と焦っていて忘れていたが、黒髪少女に頼まれてすぐに育て屋を出たから、今現在まで縛られたまま放置していたことになる
シリアスかましてる場合じゃなかった
「ヤバイ限界!トイレ行きたいんやけど!」
と第一声を上げた彼女には、本当に悪いことをしたと思っている
失禁させていたら、それはもう隣からの視線がもっと風当たりの強いものとなっていただろう
とても反省している
だからチェレン少年よ、心底呆れましたって顔でこちらを見るんじゃない
マスカットがサイコキネシスで縄を切るなり走って奥に消えた黒髪少女は、用を済ませたからかゆっくりと歩いて帰ってきた
後ろを、おそらく彼女の手持ちのゴーリキーが続く
その手には、ポケモンの卵が乗っていた
黒髪少女が緩く笑って頭を下げる
「本当にありがとうございます。プラズマ団にポケモン盗られてまった時は、もぅこの子等に会えないかと…」
ポケモン達を助けてもろたお礼にと彼女が言い、ゴーリキーに差し出された卵をしばし見つめる
この卵は、誰の手に渡ってしまうかも知らずに、勝手に他人に生きる道を委ねられてしまうのか
チェレンが大事に育てます。と卵を受け取ったが、自分は到底受け取れないと感じる
強いポケモンを育てるために産ませた際のあまりの卵なのか、いらないと拒否されて残された卵なのかは知らないが
少なくとも、そう易々と受け渡しされるものではないはずなんだ…卵の中には、命が眠っているのだから
「俺は、いいです」
卵の受け取りを拒否すると、チェレンからの訝しげな視線が刺さる
そーゆーマイナスな感情は隠さないと誤解されるぞ
なんて思ったのは一瞬で、たぶんおそらく、俺が不審者認定されてるから隠さずにぶつけられてる感情なんだろうな…
「この卵は、俺みたいなんじゃなく、もっと誠実で優しい人のもとに行かせてやってください」
できたら、命を命と理解できる人間に。けして過ちを犯さない人に
チェレンの視線をいなしつつ答えた俺に、一瞬きょとんとした黒髪少女は首を傾げる
「あなた達はポケモンを助けてくれたし、大丈夫と思うたから渡そと思たんですが」
「何か受け取れない理由でもあるんですか?」
まるで問い詰めるように、眼鏡の奥の瞳をきらりと光らせて睨んでくるチェレンに、苦笑いを浮かべて
「無いわけじゃあ無いけどね」
とだけ答える
今まで、生かすも殺すもこちらの勝手にしてきていたんだ
今から出会う命は、償いというわけじゃないが、傷つけずに大事にしてやりたい
これは俺の偽善で自己満足でしかないんだけど
「なぁ、マスカット」
『――?』
とりあえず二人の、感情は違えど理解できませんの意志をありありと乗せた視線が痛くて、パートナーに同意を求める
そしたら律儀に首を傾げるもんだから、笑ってしまった
☆☆☆
子が、親や環境を選べないのが当たり前なんだから、せめて自分に伸ばされた手だけでも救ってやりたいだなんて、とんだ偽善だ
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