月に嘆く

ゴシックファンタジーの洋館に出来そうな外観の学校

その一番高い三角屋根から、月明かりで霞む地面に飛び降りて、月見をしていた人物からコップを奪い取る

アルコールのキツい匂いに、眉間に皺が寄るのを感じつつ、一気に煽る

早速夜景がぐらりと揺らいで、頭がくらくらした

「イライラする」

「それはいけませんねぇ、ナガレ」

メフィストは『ゆかた』とプリントの入ったピンク浴衣にゴシックの傘と統一性のないファッションで、憎たらしく笑う

どうしたんですか?と新しいコップに手酌しながら尋ねてきたので

「サタンのガキ。」

とだけ答える

カップに梅酒が注がれる

「私達の末っ子、世話の焼ける弟です」

月明かりに、使い魔のケット・シーと組み手をするサタンの子が見える

組み手に真剣になりすぎて、遠くにいる彼らはこちらに気が付かない

「イライラする」

「ナガレ、あなたも世話が焼けますね」

「……。」

メフィストは呆れたように笑っているが、本心がまったく読めない

何処から持ち出したのか、格好に似合わないアンティークな机にコップを置き、ショッキングピンクのソファーに座ったまま

それが気に入らなくて、ふんと鼻を鳴らせば、癪に触る笑い声が澄んだ空気を揺らす

苛立ち紛れに酒を煽ると、またすぐに新しく注がれた

コップを覗き込むと、月と、この世のものとは思えない青い光源がゆらゆら映る

生まれちゃいけなかった、呪われたガキの証拠の青

彼にとって、最大の武器にして、最大の枷

「あのガキ、あがくなぁ。疲れないのかなぁ。あんな顔しちゃってまぁ…」

あがかなきゃいいのに、疲れちまえばいいのに

人間なんて諦めて、悪魔になっちまえば苦しまなくてよかったのに

遠くの姿を眺めていると、

「ナガレは好きですねぇ、彼のこと」

なんてからかいの言葉が飛んできたから

「人間で居たかったなぁなんて、今更愚痴にもならないよ」

と返す

悪魔と人間の間の子なんて、多くなくても少なからずは居るんだ

自分だって、サタンなんて魔界の王の血は引いてないけれど、結構階級が高い悪魔の子だし

周りが『この子は人間だ』『悪魔だ』って騒ぐのが面倒臭くて、メフィストについていくことにしたんだけどね

退屈しなけりゃいいかなって…別に後悔なんかしてない

「可愛い末っ子ですね」

「誰のこと言ってんの」

当然ケット・シーに潰されてる少年を指しているものだと思って、間髪入れずに言ってやる

そしたら

「あなたですよ、ナガレ」

なんて、なにか含んだ視線をくれたもので。

「どいつもこいつもファザコン気取りやがって!」

と机を蹴り飛ばす

メフィストの珍しく慌てた声を聞き流し、若干頼りない足元に神経を集中させ、跳ぶ

夜の冷えた空気がアルコールで火照った体を冷ましていく感覚に、目を細める

サタンの子のくせに、人間の育ての親を慕うガキに

サタン相手に父さん父さん言う兄弟たち

「あーあ、全部嫌になってきやがるの」

捨てられたガキの自分としては、悪魔だろうが人間だろうが、肉親が羨ましい

燐が必死に人間であろうと藻掻くのを見つめながら

「シロー、あんたの育てたガキ共は、めちゃくちゃ元気だぞ」

と呟く

自分の親にと、名乗り出てくれたときに甘えとけばよかったかなと、つい持ってきてしまった梅酒を傾ける

夜はまだまだ長い



☆☆☆
燐君の監視兼観察の為、塾に行っているらしい
神父のシローさんともメフィスト繋がりで知り合いだったらしい

[ 246/554 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -