甘くて美味しい人
出会いは個人的には最悪だった
彼はすごく可愛かったよと言うけれど…
カイリューの背中に乗って海を渡っていたら天気が崩れ、突然の乱気流と濃霧に襲われ
仕方なしに無人島らしきところに降りてもらったら、バケツを引っ繰り返したような雨に襲われ…
近くにあった洞窟に入ると野性ポケモンに襲われ……
色んなものから逃げ惑ううちに、何処から入ってきたのか、すっかりわからなくなっていた
いつの間にか洞窟の奥の奥に迷い込んでしまって、憔悴しながらパートナーのブラッキーと彷徨っていると、凄くいい匂いがしてきたんだ
ミルクのような、すこし甘い匂い
お腹も中身が空っぽなのを主張してきていて、ついつい匂いの方に釣られ自然に足が向かっていく
ふらふらと光に吸い寄せられる虫ポケモンのごとく歩く私を、パートナーの冷たい視線が貫いているが気になるけど見ないふり
なにやら光源のちらついている大きな岩影の奥を覗き込むと、モデルのような整った顔つきの男の人が、簡易キッチンでシチューを作っていた
傍に座るルカリオがピクピクと耳を揺らしながら、鼻を動かしている
可愛い
絵になる光景を眺めていたら、空気を読まずにくりゅぅぅぅぅぅと大きな音が響いた
空腹の限界を迎えたそれが、吠えたんだ
咄嗟に下を見るとパートナーが呆れた眼差しで見上げている
「ち、違っ!お腹空いてるけど、我慢しようとしたんだよ!ほんとに」
必死に白い目で見てくるパートナーに弁解していると、クスクスと背後で笑い声がした
肩を叩かれて後ろを振り返ると、さっきの男の人が笑いながら立っていた。片手にお玉を持って。
それすら似合うってのは、イケメンの特権だと思う
そんなことよりさっきの音が聞こえたか否かが問題なわけだが
今の顔色と合わせて、まさしくコイキングのごとく口をパクパクさせるだけの私の手を引いて、ルカリオの隣に座らされる
気が付けばとろとろあつあつのシチューがなみなみと注がれたお皿とスプーンを手渡されていた
「あ、あの」
「私はゲン。君がさっきからこちらを見ていたとルカリオが教えてくれたんだ」
お腹が空いていたみたいだったから、どうぞ?と促され、隣を見る
ちょっぴり誇らしげなルカリオが、なかなか食べようとしない私にスプーンを直接握らせて、微笑む
ゲン、さんとルカリオに見守られながら、一口
「美味しい…」
お腹までゆっくりと落ちていった温もりに何だかほっとして、思わずそう呟いていた
ゲンさんがクスクスと喉を揺らして笑う
「凄くいいお腹の音だったよ」
顔が一瞬で熱を帯びる。ボンと音がして着火する勢いだったと思う
ちゃっかりゲンさんからポケモンフーズをもらっていたブラッキーが、口の端を上げ、流し目でこちらをみて尻尾を振っていた
長年の付き合いでわかるが、あいつ、トレーナーが困ってるのを楽しんでやがる…!!
「違うんです!色々大変だったからあんな音が鳴っただけで、あのあの…」
必死になればなるほど、ルカリオは目を真ん丸にして興味津々に見つめてくるし、ゲンさんは笑みを深めていく
ブラッキーまでニヤニヤし始めているなんて、ひどい
「もしよければ、あとで話を聞かせてもらえるかい?」
そう言いながらにっこりと笑った彼に数秒見惚れ、慌てて手元のシチューに視線を戻し、頬張る
微笑ましそうな視線が物凄く恥ずかしくて、とてもじゃないが彼の顔を見れる気がしなかった
「あの時は本当にかわいい子を見つけたなぁっておもったよ。」
黙々と、でも美味しそうにシチューを頬張る姿も見ていて癒されたし
耳も顔もすっごい真っ赤にして、目を真ん丸にして照れるから、思わず苛めたくなって困ったよ
「だからなんですね、お腹の音のことをわざわざ言ってきたのは」
いつかのように、シチューを作る姿を眺めながら、頬を膨らます
てかなんだ、当時は可愛かったみたいな言い方は
色々と腑に落ちなくて不貞腐れていると、シチューの入った器が差し出される
「まぁ、ナガレは今も可愛いけど」
「今更言っても遅い。」
いい匂いのするシチューを頬張ると、ナガレ、耳真っ赤だよ。とゲンさんは幸せそうな声色で笑った
☆☆☆
何故かシチューな人のイメージがあるため、シチューシチューした話を
ゲンさんは紳士的なくせにちょっと意地悪だといい
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