観客ヒロイン

私は、プラズマ団から離れて生きるすべがわからなくて

お前がついていきたいのはN様かゲーチス様かと問われたとき、迷いなくN様を選んだんだ

N様は団員を裏切って居なくなったと言う奴も居たけど、それも勝手な決め付けなんだ

どちらかといえば、二年前のあの日…ゲーチス様が切り捨てたんだ

私はN様の傍にずっといたから知っているけど、誤解している仲間も多い

「悲しいなぁ」

過去を辿って、彼が残したトモダチ達を集めて…

彼と一番傍にいたゾロアークは、彼の様々な過去を、幻影として見せてくれた

「淋しいなぁ」

彼は、ずっと淋しかったんじゃ無いのだろうか

実の親に、ポケモンと話が出来るからと捨てられて、ポケモンに育てられて…

「辛いなぁ」

そこで幸せになれるかと思ったら、ゲーチスに拾われて、彼が望むままに育てられ

拾われた孤児達とともに、偏った知識のみを与えられて

「虚しいなぁ」

世界を変えようとしたら邪魔されて、傷ついて、自分の間違いを強引に正されて

「なんでかなぁ」

それでも彼は、前を向いていたんだ

自分のしたことを悔やんで、償って…

再会したゲーチスを彼は、父さんと呼んだんだ

あの場に隠れて成り行きを見守っていた自分は、蹲って声を殺して泣くことしか出来なかった

二年前と同じで…

「あぁ、なんでかなぁ」

二年前にN様を退け、英雄になったあの子が観覧車を見上げている

違うんだよ、N様が来るのは金曜日なんだ

随分と風貌の変わってしまった遊園地で、唯一変わらない観覧車が、まるで待ち人を待っているみたいに回る

見ていられなくて踵返すと、周りを見ていなかったため、肩をぶつけてしまう

腕のなかにいた、N様のトモダチのゾロアが鳴いた

「…すみません」

「…そのゾロアは、君の?」

「……!」

どこか見覚えのあるペンダントが目の前で揺れている

思わず見上げて、距離を見誤りふらついた

二年前とまったく変わらないその姿は…

「あぁ、N様…」

ゾロアが私から離れ、彼の腕のなかに飛び込んでいく

彼は目を細めてゾロアを撫で、自分の髪に触れてくださる

「久しぶりだね」

ゾロアと自分に向けられた言葉に、頭を下げる

「N様、もう一人の英雄が、あなた様をお待ちになっております」

ゾロアは私の肩に飛び乗って、一言だけ鳴いた

長い間見つめるだけだった、N様の背中を押す

彼は、少しだけ目を見開いて、そして花が綻ぶように笑った

ありがとう。と

遠ざかる背中に、

「やっぱり、悲しいなぁ」

と唇から零れる

我らが王様は、とっくの昔に終えたはずの物語のエンディングをようやく迎えるのだろう

自分はいつかのように涙を流して、ゾロアを抱き締める

背中を眺めるだけが、脇役の自分が出来る唯一の役目



☆☆☆
主人公になれなかった人と、すべてを変える力を持った人達

[ 187/554 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -