今日のためにたっぷり寝たおかげに違いない。いつになくふわふわしたお肌に気分を良くして、鼻歌交じりに日焼け止めを塗る。意気揚々と家を出たら、黄色いリネンスカートが日差しを反射させてきらきら眩しくて、ちょうちょのモチーフが入ったレースのカットソー越しに感じる春に頬が緩んだ。

待ち合わせ場所の駅前まで歩いて行く。いつもなら自転車でかっ飛ばして通り抜ける通い慣れた道をゆったりと歩いていると、まるで違う『私』になったようで、そわそわしてしまう。そしてあっという間に駅前にたどり着くと、キョロキョロ辺りを見回して彼を見つける。一度大きく息を吸って吐いてから駆け寄って、ぼんやりどこかを眺めている彼の背に向かって声をかけた。


「おはよう!」


午前十時、辺りを駆けていく風たちが温もりを届けまわっている。落ち着きのない髪を抑えつけながら彼を見れば、相変わらずかっこよくて視線を逸らすしかなくなる。私の体はカチンコチンに固まっちゃって、うまいこと動かせない。彼の前では口を動かすだけで精一杯だ。ポシェットの紐をギュッと掴んでいると、ぎこちなく振り向いた彼は顔を強ばらせた。私が「え」と思った瞬間には、引きつった笑顔を浮かべて

「お、おおおおはようっ」

と馬鹿でかい声で言って寄りかかっていた柱から身を離し、そっぽを向く。なんだろ、この違和感。なんでこっちを向いてくれないの?学校の時みたく笑いかけてくれないの?いっぱいいっぱい悩んで決めたのに、この服が変だったのかな?髪型かな?あ、それともうちがなんかやらかしたんかな?とめどなく溢れてくる不安だとか悲しさだとかで頭の中がいっぱいになって、彼が先に歩き出したことにも気付かなかった。


「ど、どないしてん。腹痛いん?」


俯いたまま動かない私に気がついて戻ってきてくれた謙也くん。そんな彼のスニーカーが、つま先だけをちょこんと私の視界に差し出した。スニーカーのつま先をじいっと見つめる。謙也くんのスニーカーはピカピカで、謙也くんにとても似合っていた。もしかたら謙也くんも、悩んで悩んでこれを履くことに決めたんかな。そう思えたら私は顔を上げて、少し背の高い彼を見上げた。そして面食らったように口を結んだ謙也くんに思い切って聞いてみる。


「うちの格好…おかしいかな?」


あ、絶対今の自分、情けない顔しとる。あかん、せっかくの初デートやのに泣いたら。ギュッとポシェットの紐を握る手に力を込める。口をポカンと開けたままの謙也くん。なんも言うてくれへんからさらに気は沈み、直球すぎる質問をしたことに早々に後悔を募らせた。心の中で言葉にならない感情と私が格闘していると、謙也くんはまたそっぽを向いてしまった。


「ち、ちゃうねん!全っ然ちゃうねん!お前がおかしいんやなくて俺がおかしいねん!」


謙也くんは口を手で抑えながら「あー」とか「うー」とか言って、目だけでチラッと私を見ると観念したように口を開いた。


「…かわいいねん」
「へ?」
「お前と学校以外で会うの初めてやし、そんで今日のお前いつもとなんか違うし、てゆうかむっちゃ可愛くてめっちゃビビったし…せやから…」
「へ」
「ほ、ほら!もう行くで!」


またまたそっぽを向いて先に走り出す謙也くん。でも今度は、彼の大きな右手が私の小さな左手をしっかりと握っていたから、一歩遅れて私も走り出す。


「あー」とか「うー」とか言わなければならないのは、今度は私の番だ。



110401 ohno
中学生のメイクは日焼け止めを塗ることだと思ってます。変なものつけなくても可愛いもの!




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