six | ナノ






ここは静かで平和な放課後の教室だったはずなんだけど。とりあえず誰か私にこの状況の説明をくれ。

「へぇ。結構冷静だね、なまえちゃん」
「そうですかね。…とりあえず離れて頂けませんか、及川先輩」

簡単に言えば、この学校で一番のイケメンと名高い及川徹に壁ドンされているのである。冷静と言われたが表情筋が基本働かないだけで物凄くテンパっている。うん、あれ、どうしよう。

「えーやだー」
「聞き分けのないこと言わないでください」

私は有り大抵に言うとこの男が苦手である。女の子にヘラヘラ、ヘラヘラとしているのを見ると苛々する、かなり。

「遊びにしてはおふざけが過ぎます」
「じゃあ遊びじゃなかったらいいの?」
「そういう問題じゃ、ってちょっと!」

急に及川先輩が私を抱き寄せたから腕を突っ張って遠ざけようとしたけど、流石に私の力では現役バレー部主将はびくともしなかった。そのままカーテンの中にひっぱり込まれたから抗議しようとすると静かにして、と言われた。

「…何なんですか」
「先生いたけど?」
「カーテンの中に2人でいる方がアレだと思いますが」
「ドアの位置から足見えないからサ」

笑って首を傾げるその動作まで様になるのがこのイケメンの腹立つ所だ。

「いい加減にしてください。私、遊びでこういうことされるの凄く嫌です」
「…俺さ、遊びでこんなことしないけど」

ハァと溜め息をついて、急に怖いほどに真面目な顔になった及川先輩にまさか、と言おうとした言葉は吐き出されることなく目の前の唇に飲みこまれた。

いたずら完了とばかりに顔を緩める先輩にキスされたということを理解して、やっと絞り出したのは本当に拙い言葉だった。

「先輩、ここ窓の外から丸見えですよ」
「知ってるよ」





「ねぇ、なまえちゃん」



あぁ私はこの男が、



「好きだよ」



私の初恋をいとも簡単に攫っていくこの男が、苦手だ。




カーテン裏の秘密
(秘密なんてモンじゃない、見せつけてるんだよ)