six | ナノ






パッケージにおばあちゃんの知恵袋がプリントされている、少し甘い味付けの煎餅の袋をバンッとあける。その音とともに、ワタシのハツコイが終わりを告げる。否、本当はこの煎餅をスーパーで大人買いする前に終わっていたのだけれども。その音が一つの区切りみたいにワタシのココロにストン、と落ちてきたのだ。
(思ったよりも悲しくはないなあ……)
そんなことを考えながら、煎餅の袋を開ける。今更だけれど、こんなに煎餅の種類があるのかと吃驚する。濡れ煎餅に厚焼き、のり、薄焼き、サラダ、米つぶ、さとう、ざらめに揚げ煎餅、……昔の人は凄いな。今の気分なら、煎餅の歴史とかまとめあげて論文にしたるわ。
(でも、動揺はしてる、みたいだ)
実際に告白なんて、したわけじゃない。とってもベタな話だけれど、告白されてオーケー出しているところをたまたま目撃してしまったのだ。そんな場面、マンガとかドラマだけの話だと思っていたのに。まさか本当にあるだなんて、誰が思うだろうか?目撃現場は、うちの高校の裏庭は告白するにはうってつけの場所だって一部の女子の間ではとても有名。人も少ないし、サボリにはうってつけな場所でもある。そして東校舎から西校舎に向かう隠れ最短ルートでもある。最短ルートだというのは、黒尾先輩が教えてくれた。「秘密な」なんて笑いながら教えてくれた。だから、ワタシはそのルートを使って黒尾先輩に会いに行こうとしたのだ。今、思えば黒尾先輩に会いに行こうと思わなければそんな場面、見ることもなかったのだ。黒尾先輩に、会いに行こうと思わなければ……。ちがう、黒尾先輩は関係ない。いつだってお話聞いてくれた。孤爪くんと仲がいいだけで親身になってくれる黒尾先輩は、ワタシにとって「憧れの人」なのだ。本当は女の先輩が憧れ的な存在なはずなのに、可笑しいかも。
ワタシが好きだった人は、別に憧れの人ではなかった。同じクラスで、あんまりお話したことは無かったけれど、一言一言丁寧に話している人だった。すこししかしたことのない会話だったけれど、お話しているとすごく楽しくなった。もとから、口下手だと言われていたけれど、その人と話すととてもお喋りになれた。すらすら言葉が出てきて、自分が自分でなかったかのようで……。すこし、自分に驚いたりもした。
黒尾先輩は、「そりゃ緊張してんだろな」なんて言って「まあ、ガンバレ」って背中を押してくれた。そんな人を好きになればよかったのかな。でも、あの人を好きだったっていう自分を否定したくないし、後悔だってしたくない。
もう一つ、煎餅の袋を開けた。お醤油の匂い、良い匂いだな。口にふくむとじんわりとお醤油の良い味が口の中に広がる。でも、ちょっとしょっぱいみたい。涙なんか出てきた。ズズと鼻をすする。お煎餅がしょっぱくて涙が出るなんて、全然笑えない。
ぽたぽたと机の上に涙が落ちる。全然笑えない。笑えないよ。
「う、ふぅ……う、」
笑いたいよ。
こんな時、黒尾先輩が傍に居てくれたらな、なんて思うワタシはとってもズルイ子なのだろうか。