six | ナノ






カチコチ。刻む時計。まるで、命の終わりを刻んでいるようだ。否、刻んでいる。



「テニスが出来ない上に心臓が時計になるなんて…おかしいよ」



震える身体を両手で抱いた幸村くんは涙を滲ませ、俯いている。病気は治る。でも、思わなかった。信じられない。



『先生は最善の努力を尽くすって言ってたよ』

「みょうじは脳天気だね。羨ましい」



何もかもを失ったような顔の幸村くんは窓ガラス越しの空を見上げている。そして、私の頭を掴んで左の胸にあてがう。



「聞こえるだろ。鳴ってる」



伊達眼鏡がずれる。小さな音だ。でも、きちんと聞こえる。この音は幸村くんが死ぬ瞬間、なくなるんだろう。悲しいのか悔しいのか分からない。不安定な感情を抱えた彼が息を吐く。



「あと、何年生きられるんだろう。明日? 一週間後? 一年後?」

『ずっとかもよ』

「ふーん…いつでもいいや。生きるのって面倒だ」



憧れの人は薄く笑って泣いた。どうすることも出来ない私の不甲斐なさ。泣きたいのに泣けない。だって幸村くんが泣いているから。私の代わりに泣いてくれている。嬉しくて笑えば不細工な顔、って言われた。



『うるさい』

「ふふ…。なまえさん、俺が死ぬまで一緒にいてよ」



この先、彼が生きる時間を奪うことになる。それでも良いのか聞いたら頷いた。



「むしろ、俺が奪うんだよ。なまえさんの時間を奪う程、恋に溺れるっていいね」

『これから、よろしく』

「こちらこそ、お願いします」



茜色の病室で小さな手を握った。