four | ナノ






放課後、委員会集合の放送に文句を言いながら教室を出た。今日はせっかく早く帰れる日なのに、ついてない。あ、でもまあいいか。私はあることを思い出して、内心ガッポーズをした。ちなみに私は図書委員だ。実は隣のクラスの委員に猿飛佐助くんという人がいる。違うクラスだけど、一年生のころは同じだったから面識はある。下の名前でも呼べる。でもくんはまだ外せない。でも、違うクラスなのに委員会が同じになるなんて運命感じちゃうよね。偶然選んだのが同じ、んふふ。

今も佐助くんは図書室でせっせと本の整理をしているが、そんな姿も相当かっこいい。ほとんどの女子がきっと同意見。さらに委員会を遅刻してきた罰(文句を言ってダラダラしていたのだ)として整理をやらされているため、なんと2人きり。夕日を背に、本を眺める美少年あり。なんてね。佐助くんは生物コーナー、私は哲学コーナー。この角度からなら佐助くんの背中をガン見することができる。あー、きゅんきゅんする。

「ねー佐助くん」
「あー何?」

佐助くんさ、この世界が神様が動かしてると思ったことない?思わず、そんな質問をしてしまった。言った途端に後悔する。やだ、すごい変な人みたい。さっきから哲学の本ばっかり見てるからだ。モノクロで色あせた哲学者のおっさんの表紙の写真を睨んで見た。おっさんに落ち度は全くないけど。
「もしそうだったら俺らなんて小さい存在だな」

そう言って佐助くんは振り返ってこっちを見た。ずっと見てたこと気づかれてたんだ。やばい、どんどん顔が赤くなってくる。夕日のせいにできないかな、これ。思わず俯いて興味もない本を開き、読んでいるフリをした。目で文字を追っても頭に入るわけがない。色あせた紙に並んだ小さな文字たち。もしかしたら、私たちもこんな感じなんだろうか。小さくて、多すぎて、そこにあるってことしか分からない。きっとそんな私たち。

でも、待ってよ。本当にそれでいいの?そんな風に過ごして、いつか後悔したってもう戻らないんだよ。私がさっき見過ごしていった文字たちはもう二度と出会うない文字たち。今日の夕日も、この2人きりの時間も、今だけのもの。こんな想いにだってもう出会えないかもしれない。この世を神様が創ったって言ったって、この世は神様が終わらせるって言ったってこの世界は神様のものなんかじゃない。私たちにとっては、私たちのもので。私たちだけの、私だけの世界。

すでに本の整理が終わって佐助くんは帰り支度をしていた。あ、待って。そう思うのに何故だか足が動かない。自分でも分かっている。言うなら今だって分かっているんだ。佐助くんがじゃあねって言って、私の口は勝手にまたねって言ってしまって、佐助くんが図書室を出ようとしたそのちょっと前に、私は佐助くんの腕を引き止めた。佐助くんはきっと物分りがよくて私の気持ちも分かってるはずなのに、少しだけ驚いた顔をしてくれる。

「佐助くん、私佐助くんのこと好きだよ。すごい好きだよ。」

それを聞いた佐助くんの表情は分からない。私が下を向いてしまったから。もうどうなったっていいんだ。走り抜ければいいんだ。何もかも一度しかないなら、どんなに小さなことだって無駄になんかしたくない。だから、佐助くんが好きでよかった。佐助くんが好きな私に出会えてよかった。

「うん、知ってる」

そして佐助くんは私の身体を引き寄せた。優しい声が上から聞こえる。