four | ナノ






あの時見た青、白、赤はまるで、トリコロールのようだと思った。


―――十束多々良、白銀の王に次いで周防尊もしんだ。吠舞羅の一員だった私は、それをこの目で見てきた。思えば、この数日で多くの人を亡くしたんじゃないだろうか。白銀の王はどんな人かは知らなかったからともかくとしても、多々良さんと尊さんの二人を亡くしたのはあまりにも大きい。赤色だった世界に、色がなくなった。
そんな時、元吠舞羅で現在はセプター4にいる猿比古と偶然にも再会した。彼曰く、今日は非番らしい。ちょっと付き合えよ、と言われたがどうにもそういう気分ではない。私はすぐさまその場を去ろうとしたが、猿比古の引き止めた腕がそれを許そうとはせず、私は小さく溜め息をついた。掴まれた腕が、じわりと痛んだ。


▽▲


「―――お前さ、」
「…何」
「吠舞羅、抜けたんだってな」
「…だったら、何さ」


そう、私はつい先日吠舞羅を抜けた。多々良さんが死んで、尊さんが死んで、徴がなくなって、世界に色がなくなって。何もできなくなった私に、吠舞羅にいる理由はない。今の私は、足手まといなのだ。だから私は、吠舞羅を抜けた。いったいその情報がどこから入ったというのだろうか。そんな疑問もそこそこに、小さく握りこぶしを作った。


「…足手まといになるの、今の私は」
「…だろうな」
「それに、居場所もなくなった。だから、抜けた」


一言一言、言葉を選び咀嚼するように吐き出す。吠舞羅を抜けたことに後悔はしていないのに、なのにそこには自分自身の言葉に傷ついた自分がいた。戦えなくなったことがつらいわけではないのに。いつかは足手まといになることくらい分かっていたから、その覚悟だってあったのに。なのにどうしてこんなにも、胸が痛いのだろう。どうしてこんなにも、震えが止まらないのだろう。


「―――セプター4」
「え、」


「セプター4に、来る気は?」


ドクン、と心臓が高鳴った。猿比古の突然の一言に私は思わず呼吸を止める。私が、セプター4に?だけどそれでは、吠舞羅を裏切ることになる。そこまで考えてハッとした。私はもう、吠舞羅ではないのだ。居場所もない、だから居場所がほしい。猿比古に、助けてもらいたい。そんな甘えた考えが脳裏をよぎった。


「…だめだよ、行けない」


だけど、甘えちゃいけない。私はまっすぐ猿比古を見つめると、猿比古は一度舌打ちをしてあっそ、とだけ答えた。


「ねぇ、猿比古。多々良さんと尊さん、幸せだったかな」
「…だったんじゃねぇの」
「そっか」


ふわりと笑って、私は猿比古に言った。


「さよなら、猿比古」


―――数日後、彼女は突然姿を消した。


(助けてという彼女の声にもっと早く、気づいてやりたかった)


(助けてっていう声がいつか、届けばいい)


脳裏に焼き付いたトリコロールはまだ、消えてはくれない。