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目の前でゆらゆら揺れる煙に、ひとつだけ大きく息を吐き出した。
そしてホワイトアウトする思考を振り払うように頭を振ってから、近づいてきた気配に気がついてゆっくりとそちらに目を向けた。
『…まさか、貴方に逢えるとわね』
目の前に現れた友人…いや、もう元友人って言うべきなのかな。
「…俺もまさか、お前にこんな形で逢うとは思ってもみなかったよ」
柔らかな銀の髪をふわりと揺らしてこっちを見る彼の瞳は、いつもと違って両方の瞳で私を捉えていた。
カカシとこうして見つめ合うのは、何年ぶりだろう。
毎日あってたはずなのに、いつの間にあわなくなったんだろうな。
なんて、ぼんやり考えても意味なんてないのは分かってるからそんな考えを振り払うように真っ直ぐカカシを見据えた。
「…どうして、」
『…ん?』
「…どうして、
俺に何も言わずに出て行ったの?」
真っ直ぐ、ほんとに真っ直ぐに。
昔は、あの瞳が好きだった。
同期で、幼馴染。
それだけじゃ足りないぐらいに私は大好きだった。
…だからこそ、許せなくなってしまったんだ。
カカシに辛い思いをさせている木の葉が。
人を傷つける任務に着かないといけない。
それは忍びである誰もが知ってる事。
だけど彼は優しすぎるんだ、だからそう言う任務から帰ってくる度にいつもと違う、無理をしてるカカシが見てられなかった。
私に出来る事なんて何もない。
でも、世界に異議を唱えることぐらいならカカシに迷惑をかけずに出来るかも知れない…
なんて言うほど貴方が好きだ、なんて言ったら多分引かれてしまうんじゃないかな。
『さぁ。なんでだろうね。
昔の事なんてわすれちゃったよ』
自重気味に笑えば、カカシは顔を少しだけ歪めた。
「なまえ、俺はそんなにも頼りなかった?」
『…そんなわけないでしょ。
カカシはいつも、誰よりも私が信頼を置いて頼ってた人だよ』
「じゃあなんで…!」
荒げた声と同時に一つ大きな爆音が聞こえた。
私の同志たちが倒れて行くのが分かった。
行かないとダメなのに、もう少しだけここに居たい…
なんて思うのは私のワガママで。
『…全部、私のワガママなんだよ』
静かに呟けばその声はゆっくりとカカシの耳にも届いたみたいで、彼は一度目を閉じた。
あぁ、偶然だったんだ。
それを知ったのは。
私が頼るのはカカシなのに、
カカシが頼るのは私じゃないってわかってしまったのは。
全部知ってると思ってたのは、勘違いで、私の知らないカカシが増えて行くのが怖くなって勝手に理由をつけて木の葉を出ただけなのかもしれない。
『…さぁ、カカシ
この巻き物と私の命が欲しいんでしょ?』
ゆっくりとまた私を見据えるカカシは、私がさせたくなかった辛い顔をしていた。
「…なまえ、俺は」
何か言おうとしてるカカシを手で制して、最期に小さく笑ってみせた。
『…ごめん、さよなら』
それだけ言って握った起爆札を発動させると、トリコロールのようなチカチカとした世界に包まれた所で私はゆっくり目を閉じた。
いつかまた、はじめましてのシーンから
(次は貴方のそばで、笑っていたいよ)