three | ナノ






興味が無いのだと、こっぴどく振られてしまった。断りの言葉と共に浴びせられた辛辣な台詞が私の胸を大きく抉っていく。途端に自分の行動が恥ずかしく思えてきた私は逃げるように校舎内を駆け抜けた。無我夢中で駆けた先に辿り着いたのは人気の無い自分の教室だ。いざ教室に足を一歩踏み入れれば堰を切るように涙が溢れた。人目が無いのを良い事に私は声を上げて、みっともなく泣いた。振られてしまったショックより彼に言われた辛辣な言葉の方に傷付いたのだ。何日も何週間も悩んで悩んで、やっと告白に踏み切ったというのにそれをたった一言「馬鹿じゃないか」と、ただその一言でばっさりと切り捨てられてしまった。勇気を振り絞って伝えた想いを踏みにじられたような気分だったのだ。お前と付き合うだなんて一生あり得ない、と放たれた捨て台詞が折れかけていた心に止めを刺した。どうしようもなく、ただ後悔だけが募っていく。告白などしなければ、いや、初めから彼に好意など抱かなければこんな思いをせずに済んだのかもしれない。教室の扉の陰に座り込んで私は膝を抱えた。少し優しくしてもらっただけで好意を抱いてしまった私が悪いのだ。どうして私はいつも――、「そんなところに座り込んで、どうしたの?」ふと、自己嫌悪に陥っていた私の頭上から聞こえた声に私はハッと顔を上げた。だが今の私は涙でぐちゃぐちゃの顔になっている筈だ、とてもじゃないが人様に見せられるようなものではない。その為、失礼だとは思いながらも俯いたままちらりと横目で声の主が誰か窺う。するとさらりとした少し長い黒髪に整った顔が視界に映り、声の主がクラスメイトの実渕くんであることを瞬時に理解した。

「…っみ、実渕く…、な、なん、」
「そんなに驚かなくても良いじゃない。ちょっと忘れ物したのよ」
「…あ、そ、そう…」

実渕くんが隣にしゃがみこむ気配を感じて私は慌ててこの顔を見られないようにと目元をごしごしと制服の袖で擦る。するとその腕を掴まれて「擦ったら赤くなるから止めなさい」と実渕くんに制された。どうやら泣いていたことはバレているらしい。しかし忘れ物をしたと言っていたにも拘わらず彼は私の腕を掴んだまま隣から動こうとしないのだ。そんな彼の言動を怪訝に思い私は俯いたまま忘れ物を取りに来たのではないかと問いかける。

「ああ、それは嘘よ」
「……え?」
「本当は貴女が泣いているような気がして追いかけてきたの」

何があったのかも全部知ってるわ、という彼の言葉に目を見開いた。つまり彼は私がこっぴどく振られる様を見ていたということか。そう理解した途端に羞恥から顔がじわじわと熱を持っていくのを感じる。漸く収まった筈の涙が目尻に溜まってくる。それを実渕くんに悟られないように唇を噛んで耐えるが涙は収まるどころか今にも零れ落ちてしまいそうなくらいに出てくるのだ。涙を拭おうにも実渕くんに腕を掴まれている為それも叶わない。どうしたら良いのか、と焦っていると突然腕の拘束が無くなる。そうかと思えば頬に温かくて大きな掌が添えられ、私の肩はびくりと跳ねた。彼が何の意図を持ってこんな行動に出ているのか分からず、私は恐る恐る彼の顔を見上げた。

「ほら、こんなに目を赤くして…女の子を泣かせるなんて最低の男ね。って、今泣いてるのは私の所為かしら」
「え、あっちがっ…」
「分かってるわ、ちょっと意地悪をしただけだから」

柔らかい笑みと共に実渕くんは私の頬に優しく指を滑らせて、親指の腹で目尻の涙を拭ってくれる。まるで少女漫画みたいなシチュエーションにどきり、と心臓 が跳ねた。

「私は貴女の笑ってる顔が好きなの、だからこの泣き顔が早く笑顔に変わってくれると良いんだけど」
「…実渕くん…」
「無理に笑おうとしなくていいわよ、今日は辛いことがあったんだから気が済むまで泣いちゃいなさい。そして明日には可愛い笑顔を見せて頂戴ね」

目を細めて笑んだ彼の言葉に私は頷きながら涙を流した。いつまでも泣き続ける私に寄り添ってくれた実渕くんの手を掴んで礼を述べれば彼はこれくらい何でもないのだと零し再び微笑んだ。