three | ナノ






※高校生

わかんないなあ。
だって空は晴れてるし、くつしたを履きまちがえるし、きょうは出張だから自習だって言っていたのに坂田せんせーは来た。
天気予報のお兄さん、どうすんのよ。
雨だって言うから、傘を持ってきたのに。
チャリを置いて、歩いてきたのに。

七月は、暑いのできらいです。
夏は、汗ばむから来なくていい。


「ここにいること」


青いボールペンで、ちょっと汚い殴り書き。
総ちゃんの文字を、指でなぞってみる。
人差し指の腹がくすぐったい。
わたしの気持ちに似ている。

きょうの、数学の時間に、ケータイの着信が鳴った。
総ちゃんだった。
ふつうに電話に出て、話そうと廊下にいきかけたのを、せんせーがチョークを投げて止めた。
いけねえ、体罰でさァ。
総ちゃんはわらってた。
ばかだなあ、マナーモードにしとけばよかったのに。


「てゆうか、遅いよ……」
「すいやせんねェ」


ひとりごとへの返答に、びっくりしておもわずわたしは紙切れを落とす。
ひらひらと床にゆっくり着地して、裏面の白紙がびかびかとまぶしく、彼の伝言は見えなくなった。


「生物室に忘れものしたから、取りにいってた」


よいしょ、と、おじいちゃんみたいなことを言って、総ちゃんが目の前に座る。
待ってるときは、とっても長いのに、来てしまえば、あっとゆう間に過ぎていく、時間って、へんなやつだし、そうゆうとこ、むかつく。

放課後の教室に、わたしと総ちゃんだけの世界。


「今朝また、くつばこに手紙が入ってた」
「ふうん」
「今度は、となりのクラスの女子でさァ」
「読みたい」
「だれが読ませるかィ」
「けち」


にゅうっと、白い腕がのびてきて、わたしの右横を通過する。
ガイコツのピアスをなでられる。
耳元でごつごつと音がする。

総ちゃんがすきだった。


「パンクだなァ」


開けないの?、と聞いたら、開けない、と返ってきた。


「おそろいの、つけたかったのに」
「アンタのくつした、おかしくねぇかィ?」
「うん、おかしいよ」


だってこれ、冬服用のやつだもん。
総ちゃんがいっつも、ばかばか言うから、わたしほんとにばかになったんじゃない?


「ねえ」


窓の外でセミが鳴いている。
総ちゃんは立ち上がり、入口の方へ歩いていく。
かばんをつかんで、その背中を追った。


「なんですかィ」
「どうしてここにいろって言ったの?」


グランドの野球部のかけ声が、校舎まで響いてくる、夕暮れに、総ちゃんの髪の毛はきらきら光っていた。


「いっしょに、帰ろうとおもっただけ」


夏をちょっぴり、すきになれそうな気がした。