嫉妬(沖斎)




京の町は今日も肌寒い。もう春だというのに、気温はいっこうにあたたかくならない。ただ、桜の花びらがひらひらと舞い降りていくだけだ。


そんな中、俺は楽しそうに話している雪村を見つけた。


『ちょうど良い。雪村には頼みたいことが…』


俺は見てしまったのだ。
雪村が楽しそうに話していた相手は総司だった。
雪村だけでなく、総司も笑顔で話している。あんな総司は俺ですらあまり見たことがなかった。

なんなのだろう。このモヤモヤした気持ちは。
だが、その気持ちがなになのか、答えを出す前に俺の体は無意識に雪村と総司の元へと歩きだしていた。


『総司。』

『あ、斎藤さん。こんにちは。』

『ん?どうしたのさ。一くん。』

『総司、ちょっと来い。』

『なんでよ、見てわからない?僕は今、この子と話してたんだけどなあ。』

『いえ、お話ならいつでもできますし、斎藤さんの用事が大切なものだと悪いので。沖田さん、楽しかったです、ありがとうございました!』

『千鶴ちゃんがいいならいいんだけど。』

『すまない雪村。では失礼する。』


そのまま総司をグイッと引っ張り、俺と総司はその場を去った。


『ねえ、一くん。痛いんだけど。』

『……………。』

『ちょっと。聞こえてるんでしょ?痛いんだけど。』

『………していた。』

『え?なに?』

『なにを話していた。』

『なにって言われてもなあ…べつにたいしたことないけど。』

『では、何故あのように盛り上がっていたのだ?』

『盛り上がってたかどうかはわからないけど。でも、あの子。千鶴ちゃんは本当にからかいがいがあって面白いよ。』


なにかを思い出したかのように総司は声をあげて笑う。そんな総司をみてると、俺の中のモヤモヤは増していった。


『お前は…俺と居るときより、雪村と居るときの方が楽しそうに見える。』

『そう?僕は、一くんと一緒のときも楽しそうにしてるつもりだけど。』

『それは嘘だ。』

『なんで言い切れるのさ。』

『俺はいつもあんたを見ている。だからわかる。』

『え…、一くん、いつも僕を見てるの?』

『っ!?』


つい余計な事を言ってしまった。どうごまかそうか考えていたら、総司が口を開いた。


『ねえ、一くん。それってさ、嫉妬?』

『…嫉妬?』

『うん。一くんは、僕と千鶴ちゃんが仲良くしてるのが嫌なんでしょ?』

『………………。』


きっと、そうなのだ。俺は、総司が俺以外の誰かと仲良くしているのが嫌なんだろう。


『総司、俺は―』


その瞬間、そう言いかけた俺の唇に、柔らかい総司の唇が触れた。


『安心して、一くん。僕は誰かと仲良くしてたとしても、一番は一くんしかいないから。誰よりも一くんが好きだから。』

『総司…』

『一くんは?僕のこと好きなの?』

『……当たり前だ。』

『本当?どのくらい?』


そう聞かれて困った俺は、仕返しとはいかないが、油断しきった総司の唇に、俺の唇を重ねた。もちろん、総司は驚いて目を丸くしている。
自分でも驚くくらい、体が勝手に動いたのだ。


『うわー、一くんってこんなに大胆だったっけ?』

『うるさい。』

『照れた一くんも可愛いなあ。』

『黙れと言っている。』

『はーい。あ、一くん。』

『何だ?』

『好きだよ。』

『俺もだ、総司。』





さっきまであったモヤモヤは、いつのまにか消え去っていた。きっと、総司の言葉が俺をみたしてくれたのだろう。大きな充実感に満たされた俺は、巡察へ向かった。





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