『たっくん、大丈夫?』
あの日の天気は今でも覚えている。土砂降りの雨の中、幼い頃の俺はとある一人の男の子と一緒に雨がやむのをまっていた。
『たっくん、傘、なくしちゃったの?』
『う、ん……ひっく…』
本当はなくした訳ではないことくらい、俺は知っていた。きっと、クラスの悪ガキ共に隠されたんだろう。でも、この男の子は本当の事はいつも言ってはくれなかった。
『たっくん、大丈夫だよ。もうすぐ雨もやむよ。お家に帰れるよ。だから、泣かないで?』
『うん…っ蘭ちゃん、あり、がとう…。』
『あのね、たっくん。お願いがあるんだ。』
『なあに、蘭ちゃん?』
『僕には、嘘はつかないで。僕には、全部話して欲しいんだ。』
『……わかった。』
そう言ったときの男の子は、戸惑いながらも頷いてくれた。
あれから、どのくらいがたったのだろう。
『神童、険しい顔をしているが、大丈夫か?』
『霧野か…。心配はいらないさ。』
『…神童は、あの日の約束、覚えてるか?』
『あの日の…約束………』
『俺に隠し事はしないでほしい。今の雷門のことで悩んでいるんだろう?俺もチームメイトの1人だ。だったら、俺にも考える権利くらいはあるだろう?相談に乗る権利くらいはあるだろう?』
『…霧野。ありがとう。』
やっぱり、あのときの男の子は今も変わっていなかった。全部自分一人で抱え込んで、泣きそうな顔をしながら悩んで、自分を追い詰めて。きっとあのときも、今も、不器用なだけなんだ。
『神童。俺はお前が辛い顔、泣きそうな顔をしてるのを見るのが辛い。お前にはいつも笑っていてほしい。』
『本当、霧野には負けるよ。…ありがとな。』
俺がこう願うのは、幼なじみだからじゃない。ただ、いつまでも笑って過ごしていたいだけなんだ。
神童拓人。お前と一緒に歩きたいだけなんだ。お前が辛いときは、その辛さを分け合って、嬉しいときには、一緒に喜んで。そうやっていつまでも歩いていければ、俺はそれで充分だと、心から思う。
―蘭ちゃん、これからも…―
『霧野。これからも…よろしくな。』
-end-