お菓子よりも甘い悪戯







『おい、越前!お前何も持ってねえのかよ!』

「………だったら何?」

『ハロウィンだぞ!?トリックオアトリート!』

「あっそ。」


それだけ言って、俺は席を立つ。
後ろから堀尾が俺を呼ぶ、迷惑極まりない声が響いているけどそんなの無視。



教室に戻っても、どうせ堀尾に捕まるに決まってるから昼休みは屋上で過ごすことにした。


なんだかんだ、この屋上は居心地が良くて頻繁に足を運んでいる。

つい最近まで、ここは俺だけの暇潰し場所だった。


でも今は違う。


「あ、越前。ココ借りてるよ。」

「不二先輩、居たんスか」

「うん。なんだか僕もココが気に入ってね。」


最近は不二先輩がココで読書をするために来るようになった。
ま、俺としては嬉しいんだけど。


「そうだ、越前。」

「何スか?」

「今日ってハロウィンだよね?アメリカと日本じゃ、やっぱり違うのかな?」

「……興味ないっス…つーか覚えてない。」

「ふふっ、まったく君らしいね。」

「どもっス。」



ハロウィン…か。


「ねえ、不二先輩。」

「なんだい、越前。」


「Trick or Treat」

「え?」

「お菓子か悪戯。」

「生憎、僕は今何ももっていないんだけど…」

「知ってる。だから言った。」


不二先輩との距離を少しずつつめる。

「ねえ、知ってるでしょ?お菓子持ってなかったらどうなるのか。」


そう、お菓子を持ってなかったら…

「不二先輩には"悪戯"しなきゃね」


そういって不二先輩の唇に自分の唇を重ねる。


「ごちそうさま。」

「越前の馬鹿…」

「でも本当は嬉しかったでしょ?」

「…………。」

コクリ、と頷いた不二先輩がたまらなく可愛くて、思わず抱きしめた。


「ねえ、リョーマ。」

「どうしたの、周助。」

「僕も聞いていいかな?」

「どうぞ。」


「Trick or Treat」


きっと、負けん気の強い不二先輩だから言い返してくると思った。


だけど、まだまだだね。


「いいよ、あげる。」


ポッケの中に入れておいたチョコを口に含み、そのまま愛しい人に口移しをする。


不二先輩の口内で、チョコはほとんど溶けてしまった。


「どう?普通に食べるより美味しかったでしょ。」


「……わかんないよ。」


俯き照れながら、ボソッとすごい小さな声で言ったあとに
でも、
と付け加えて不二先輩はこう言った。


「普通に食べるチョコより、何倍も甘く感じた。」


そう、これは悪戯。


お菓子なんかよりもずっとずっと甘い悪戯。



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