「越前、待ってるからね。」
そう言って不二先輩は青春学園中等部を卒業し、高等部へ進学した。
何回かちょくちょく会ってはいたけれど、思ったより高校生活は大変らしく、不二先輩が入学してから2ヶ月後には連絡を取るのが精一杯なくらい、まったく会えなくなっていた。
不二先輩は高等部でもテニスを続けているらしい。それに、成績も上位だとか。本当、いろんな意味で天才だと思う。
不二先輩になかなか会えない中等部生活2年は、本当に寂しかった。
でも、どんなに長く感じても時は流れていく。
こんな俺も、中等部を卒業する日を迎えた。
――そして、春。
愛しい人が待つ、青春学園高等部へ。
入学式前、俺は以前不二先輩と電話していたときに教えてもらった不二先輩お気に入りの場所へと向かう。
彼は、そこで本を読むのが好きだ、とか何とか言ってた気がする。
期待を膨らませてその場所へ足を運ぶ。
ドアを開けると、不二先輩はそこで本を読んでいた。
「不二先輩。」
「えっ?」
「久しぶりっス。」
「君は……」
「忘れちゃったんスか?」
不二先輩は、どこかで聞いたことがある口調だけど自分が知ってる人とはどこか違う、なんて言いたげな顔で俺を見つめる。
そりゃ2年もあれば背だって伸びるし、雰囲気だって変わるだろう。
「まだまだだね、不二先輩。」
その言葉を聞いた瞬間、彼は何かを確信したようだ。
「えち…ぜん?」
そう呼び掛けられて、俺はにっこりと微笑んだ。
そして、大好きでずっと会いたかった不二先輩を優しく包み込む。
今まで不二先輩にすっぽりおさまっていた俺も、今では全く逆の立場。
「背、伸びたでしょ、俺。」
「本当、伸びたね。ビックリしたよ。」
「だから言ったじゃないっスか。高等部に入る前に身長抜かしてるから覚悟しといてねって。」
ちょっと得意気に言ってみる。不二先輩の照れた顔を覗き込めなくなったのは残念だけど。
「やっと、来てくれたね。」
「寂しかった?」
「そりゃあ、寂しかったよ。」
「俺もだよ。」
そう言って不二先輩にキスをする。久しぶりのキス。
「ねえ、不二先輩。」
「ん?どうしたの、越前。」
「もう俺も高等部に入ったんだし、名前で呼んでよ。」
「えっ……な、名前…で……?」
「うん。俺も高等部では周助先輩って呼びたいし。ダメ?」
俺は不二先輩が断れないことを知ってる。でも、俺だって不二先輩を求めているからの頼みごと。
「わかったよ、リョーマ。」
「ありがと。嬉しいよ、周助先輩。」
もっと二人で居たかったけど、チャイムが鳴った。
「別に入学式なんかやらなくてもいいのに。」
「こら、そんなこと言わない。ホラ、ボクが体育館まで案内してあげる。」
「ありがとっス。あ、周助先輩。」
「何かな?…え?」
「手、繋ぎたい。」
「…もう、仕方がないなあ…。」
-end-