「霧野ってりんご飴好きだよな。」
「そうか?別に好きとかそういうわけじゃ…」
神童は―
「でもお前、祭のときいつも買ってるぞ?」
「じゃあ好きなのかもな。」
神童はもう、覚えていないのかな。
初めて二人で祭に行った日のこと。
神童はもう、忘れてるのかな。
幼なじみの俺と神童は、昔からすごい仲がよくて、祭はいつも二人で行ってた。もちろん今だって。
まだ、俺たちが小学生のころ、人混みのせいで財布ごと落として何も買えなくなった俺に、神童はこの"りんご飴"を俺に買ってくれた。
それから俺は、この祭では必ずりんご飴を買っているのだけれど。
神童は覚えてないみたいだな…
そう思うと、少し寂しくなった。
「な、なあ…神童。」
「どうした?」
「ちょっとはぐれそうだから、裾引っ張ってもいいか?」
「構わないが…裾で大丈夫なのか?」
「裾以外どこがあるんだよ。」
そういうと、神童の手が俺のほうに差し出された。
「昔、よく手繋いだだろ?ホラ、早く。」
「え…あ、ああ……」
きゅっと神童の手を握ると、優しく握り返してくれる。
浴衣を着た男二人が、手を繋いでいるなんて。
周りの奴らの視線が気になる。顔が熱い。
俺はよく、女の子みたいって言われるのが嫌だが、今だけは女の子に見て欲しい。
しばらく歩いているうちに、あんなに大きかったりんご飴もほとんどなくなってしまった。
覚えているか、聞いてみたい。
俺と神童の思い出を。
「神ど…」
「神童キャプテン!」
「え……?」
前に立って、神童の名前を呼ぶのは1年の松風だった。
「天馬じゃないか。1人か?」
そういうと、神童は手を離した。
なんで?なんでなんだよ。
俺とお前が手を繋いでるのを松風に見られたくないのかよ。
俺は松風が神童に気があることは薄々感づいている。だからこそこのまま手を繋いでいたかった。見せ付けてやりたかった。
だけど神童は違う。俺と同じ気持ちじゃない。
俺のこの思いは神童にとって邪魔なのかもしれない。だったら…
「あ!霧野センパイも!こんばん…」
「神童、俺帰るよ。」
「え…?まだ来たばかりじゃないか、どうしたんだ?霧野。」
「…………じゃあな。」
「おいっ!霧野!」
俺は走ってその場から逃げた。もうあの日のりんご飴は神童は覚えてなんかないんだ。
「りんご飴なんか……大きら……」
「蘭丸…!」
全力で追いかけてきてくれたんだろう。
それも、"りんご飴"を持って。
-end-