ほんの少し (鶴蘭)




「きっ、霧野くん!」

「速水?なんだよ、いきなり。」

「いや…あの…その……」


心の準備はできてるはずだ。なのに、いざ目の前にいる霧野くんを見ると心臓がドクンってなる。


「…………。」

「…………。」

ああ、言いたくても言えない。たった2文字なのに。

こんなとき、自分がこんな性格じゃなければ。なんて考えてしまう。


「用がないなら俺は行くぞ?」

「ああっ、ま、待って…!」

「ったく…どうした?どっか痛いのか?」


違う、違うんだ。ただ、言いたいだけなんだ。

心配そうに俺を見つめる霧野くんの目は、とても温かかった。言うなら、今しかない。


「……あ、あの…」

「んー?」

「……す、すす…」

「す?」

あと、1文字。最後の1文字が言えれば伝えられる。


「……す…………き。」


聞こえるかわからないくらいの声で、ボソッと呟く。

恥ずかしさのあまり、下を向いていたから尚更聞こえたかわからない。


「速水………今のって………」

「うぅ………」

恥ずかしすぎて言葉がでない。きっと、ふられることはわかってた。そう、はじめから。俺と霧野くんじゃ、何もかもが違いすぎる。

「ごめん…速水」


ホラ、答えは……


そう思っていたら霧野くんは俺を抱きしめた。強く、強く。


「霧……野くん?」

「ごめん、俺もう…我慢できない…」


いったいどういうことなんだろう。頭のなかが混乱していて状況がわからない。


「やっと…やっと言ってくれた。速水が俺の事を好きだって。俺、嬉しいよ。」


そういうと霧野くんは俺をより強く抱きしめた。

ああ、俺たちは結ばれたのか。
俺の思いが届いたのか。
そうわかった途端、安心したのと嬉しいので涙が溢れてきた。


「泣くなよ。」

「うん…」


優しく僕を包みこんでくれる、そんな霧野くんに、触れるだけのキスをした。






-end-






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