さくら(沖斎)




新選組の屯所に桜が咲いた。
京の町にも春が来た。
別に珍しいことじゃないし、
季節なんて僕らには関係ない。
だけど、桜は嫌いじゃないんだ。

中庭でぼーっと桜の花びらがひらひらと舞い落ちるのを眺めていると、ふいに声がした。


「総司…か?」


その声の主は、もちろん一くん。


「そうだけど?何、どうしたの?」

「いや…お前が桜など珍しいと思っただけだ。」

「僕だって、桜を眺めることくらいあります。」

「……何をそんなに怒っているのか、俺にはよくわからん。」

「別に怒ってません。それより…」

「………思い出すな、あの頃を。」

「うん…僕らがまだ、出会ったばかりのこと。」



僕らは、近藤さんの道場で出会った。
本物の武士を求め、行き場をなくした一くんが、近藤さんの道場にきた。そして僕らは出会った。

一くんは、その時から剣術に優れていて、僕は一くんになら背中を預けられるって思ってた。

無口だった一くんも、今では僕には素顔を見せてくれる。
僕しかしらない一面だって沢山ある。それがたまらなく嬉しい。




「懐かしいね。あの頃は一くんのことを"斎藤さん"なんて呼んでたっけ。」

「そんなこともあったな。」

「そっか…もうだいぶ前になっちゃったんだね…」

「そう落ち込むことはあるまい。これからだって、まだまだ思い出は作れるだろう。」

「そうだね。あっ、ねぇ、一くん。一つだけ…いい?」

「あまり無茶なことは言うなよ。」

「あはははは!そんなんじゃありませんー。」


一くんの手をそっと取り、強く握りしめる。

「僕は、この命が尽きるまで、君と…一くんと共に戦って、一くんと共に生きていたい。」

「……俺もだ、総司。」


そういうと一くんは、僕の手を強く握り返してくれた。


この時の僕らは、明るい未来だけを思い描いていた。

この先、どんなことがあっても、僕らは一つだと思っていた。

ただ、ひらひらと舞い落ちる桜の花びらに、僕らの想いを乗せて。


だから、この桜が散るまでは、安らかなひと時を――。




-end-





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