畳の匂いが私の鼻を刺激する。実に美しい匂いだと思う。私の家にも和室はあるが、こんなに芳しくはない。何か未来とこの時代の間に畳革命があったのかもしれない。
私はここに来る度に同じ事を思う。

「相変わらず、良い匂いだな」
「あぁ、畳な」

今ではこんな感じで軽く流される程に、その思いは浸透している。

「それにしても、ここで君を見ると本当に長曽我部なのか、本当に疑わしいね。本当に。」
「強調されすぎだろ」
「したくもなる程に、今の君は男らしいんだよ。こっちに来る君はあんなに可愛らしいのに。あんなに。」
「強調されすぎだろ」
「同じ返事をされた!」

付き合いきれない、というように長曽我部は手元にあるお茶を啜った。
それに倣って私もお茶を手にした。

「…俺だってここに居るお前ぇを見ると本当に女なのか疑うぜ」
「そうか?」
「そうだろ。やったら城の女中口説きやがって」
「それは違う。ここの女中さんは皆綺麗だ。綺麗なものを褒めて何が悪い。君だって海に出て綺麗な宝や貴重な海図なんかを褒めるだろう。それと同義だと何故分かってくれないんだ。」
「おーおー、よく回る口なこって。」

その返事に少し口を尖らせた。その様子を見てか、長曽我部は溜息を吐いた。

「とりあえず、これ以上口説いてくれるなよ。うざってぇ…」
「うむ。善処しよう」

私は畳をなぞる。少しトントン、と振動がした。私は襖のほうへ目を向けた。

「お茶のおかわり、如何ですか」

綺麗な手が襖を引いた。
長曽我部はご苦労だな、と一つ言った。

「綺麗な手ですね。陶器みたいだ。」
「お ま え は それを止めろっつってんのが分かんねえのか!!!」
「誉めたのではない!事実を言ったのだ!」

本気で言ったのに、何故か頭をはたかれた。
私の頭は畳と衝突した。彼はこっちに来た姿の私に容赦がない。

畳が良い匂いだ。


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20110505


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