黒神めだかは走っていた。







理由は幼なじみの人吉善吉を探す為にである。
彼は人に好かれる。特に、異常な者に。

幼なじみを他人に渡したくないと思うからこそ、彼女の走る速度も速くなる。

だが、彼女の目の前に一人の男が立っている。

男を前にし、立ち止まった。

「黒神めだかと見る。
俺に目安箱とやらが何処にあるか教えるが良い。」

「目安箱?では相談なのだな。私が受け取ろう」

「そうか、だが俺を前にその尊大な態度はいただけん。

平伏せ。」

彼女が投書を受け取ろうと近付くが男の一言によって音を立てて地面をえぐる。
男が彼女の髪を掴み視線を自分に合わさせて

「自分より位の高い生物に会うのは初めてか?
羨ましいな、それはまだ偉大なる俺がしたことのない体験だ。
地面をえぐるほどの凄まじき平伏しに免じて、
先程の無礼は不問に付そう。
さて黒神、人吉善吉は何処にいる。」

彼女が口を開く前に

「無駄な革命はやめなよ、黒神さん。その男、都城王土は生まれながらの王者で言うなればエゴの塊だ。
君とは違い見知らぬ他人でさえ自分の役に立つため生まれてきたと信じて疑わない夜郎自大だ。
大人しく屈服していた方が身のためだよ。」

仮面の人物が男の事を語る。

「なんだ、ついてきていたのか行橋。
姿を見せるまで俺に気取らせないとは素晴らしい。
褒めて遣わす。
が しかしお喋りが過ぎるようだぞ。
俺は既に君臨している。
今更その存在を語られるまでもない。」

「えへ!そう言うなよ僕はお前の語り部なんだから、
そんなことより王土!
後ろを見てみろよ!」

男、都城が後ろを見た時にめだかも見えた。
会いたかったが来るなと願っていた人物、善吉がこちらに走ってくる。

「めだかちゃん!」

あのめだかが人に平伏している。
そのことに驚き善吉は駆け寄る。

「めだかちゃん、どうしたんだ!」

めだかを心配する善吉。


「人吉善吉。王よりも先に黒神の元に行くとは悲しいではないか、
しかも、俺を前にそのような尊大な態度もいただけん。
だが、ヒトキチよ・・・・・・」
善吉の顎を掴み、また言葉を紡ぐ。

「俺はお前に惚れた。一目惚れだ!
俺はこれ以上なくお前を見初めた。
妻として俺に付き従うことを許そう。」

そういって自身の顔を善吉に近付ける。
だが、触れる前にめだかが都城に近付こうとする。

「善吉に、私の大切な幼なじみに何しようとしているのだ、都城三年生!!」

「ほう?立ち上がるか、成る程大した革命だが
しかし王の恋路を邪魔しようとは無粋な女よ。
その罪、万死に値―」

行橋がめだかの体を抑えたために都城の言葉は最後まで言われなかった。

「何の真似だ、行橋」

「勿論王土、出過ぎた真似だよ、えへへへっ!
それにお前の王道楽土を築くのに彼女は必要だろ。」

「その通りだな行橋。
すまんすまん
まぁよい、いずれにしろ今日は会うつもりも無かったのだ。
ヒトキチ、その投書を読んでおけ、デートの誘いだ―
日時と場所が書いてある。
その時改めてじっくりと互いの仲を深めようではないか。」

「俺はお前との仲を深める気なんざ、ねぇ!」

「意地を張るな。お前は長い間黒神という異常と共にいた事が異常なのだ。
異常側に来い、ヒトキチよ
お前は黒神よりも俺の為に生まれ、俺と共にいるべき存在なのだ」

善吉に投書を渡した後、
背を向け、去りながら言う。

行橋も都城についてその場を離れようとする。

「普段はあんなに口数が多い奴じゃないのに、
相当人吉くんにぞっこんと見える。
全く、あいつも僕らは
変わった奴が好き過ぎる」

そうして彼も去っていき、
放心状態の善吉と既に姿の見えない都城の去って行った方向を睨みつけるめだかの二人がその場に残された。



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