※無垢N




一見すると聡明な青年で、けれど知れば知るほどに幼子のように純粋に笑う彼を、僕は試したくなったのだ。

「…ブラック…?」

組み敷いたNの僕を見上げるエメラルドの瞳は遊びの延長戦を辿っているようで、まだ危険という文字を孕んでいない。両腕の自由を奪われロマンスの欠片もない夜の茂みの一角に押し倒されているというのに、全くの無抵抗だ。朧気に月を映す彼の瞳だけが生きているかのようにぱちくり瞬く。
何をするんだ?これは何という遊び?
Nの瞳がそう問いかけている様で僕はおかしかった。同時に満足でもあった。
「へぇ、知らないの?」
僕はわざとらしく言ってやる。無垢な顔を嘲笑う様に。
Nは少し機嫌を損ねて僕を睨んだ。無言は最上の肯定である。
Nが文句を言おうと口を開くその前に、僕は手のひらで彼のそれを覆って言葉を奪う。

僕はNの服を捲った。
白い肌に吸い付いた。
互いの帽子も取っ払って、Nの柔らかい髪をぐしゃぐしゃにかき乱した。
途中でNの静止であろう戸惑う声が聞こえた。そんなものは知らない。
脇腹をわざとらしく撫で、耳をじとりと舐め回すとNは震えた。びくりと跳ねる身体が僕の加虐心を増幅させる。
「どんな感じ?」
耳元で息を吹きかけるとNは目をぎゅっとつぶり、いやいやと首を振る。その反応はつまらない。そのまま耳に舌を差し入れる。
「…っん!」
塞いだ手の下でNが小さく喘ぐ。目尻に溜まっていた涙が堪えきれずに頬を伝う。顔が紅潮していて息を荒げて全身に熱を帯びている、見たこともない彼の表情がそこにあった。

僕はそこでふと、
我に帰るのだ。

「はい、おしまい」

そう言って何も無かったかのようにNの上から降り、組み敷いた彼を解放した。
度重なる突然の出来事に、Nはクエスチョンマークをいっぱいにして潤んだ瞳で僕を見る。未だに呼吸と衣服は乱れたままで。ブラック、と小さくNの問いかける声が聞こえたけれど、僕は彼の帽子を探しながら聞こえないフリをした。

試すって何だ。
好きなように弄んで、何も知らない彼に快楽を植え付けて、Nが僕無しでは居られないようにして?これでは彼の親たちがしてきた事と何ら変わりないではないか。
ぎりと下唇に歯が食い込む。

手にとった彼の帽子を思いっきり被せてやると「いて」と彼は不満気にこちらを睨む。僕も帽子を被り直しつつ彼を見る。

「Nってまだまだ子供だね」

わざと馬鹿にするように、冗談っぽくそう言って僕は立ち上がった。Nの文句はまた聞こえないフリをした。噛んだ下唇から血の味が滲んだ。
子供なのは誰でもない。僕だ。




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