「俺たち、変わったかな」

グリーンがぽつりと呟くので、少しだけ目線をずらした。
「お前はチャンピオンになったし、俺はジムリーダーなんかやっちゃって」
僕は何も口にしてはいないがグリーンは続ける。いつものことで、彼もきっと気にしてはいない。
「ちょっと前までさ、じいさんからポケモン貰ってさ、バッチ集めて、強くなろう強くなろうって躍起になって、」
少しの間を置き、
そっか、もう何年も前の話だ。
グリーンが小さく呟いた。僕は何となく頷いてみる。最早独り言のような、けれど共通の意識に。
「お前は前以上に口数減ったな」
ちょっと馬鹿にするような苦笑いに僕もちょっと笑った。
「グリーンは丸くなったよね」
うるせーとグリーンが笑いながら空を仰いだ。
マサラの空はいつも変わらない。マサラの風はいつも変わらず僕らを迎えてくれる。けれど僕らは日を追って変わっていく。空に伸ばした手も、あの頃より長くなった。

「変わっていくんだね」

あの頃には戻れないんだね。
という言葉は心の中で付け足した。
背丈も言葉も心も。目の前の故郷すら、いつかは変わってしまうのだろうか。流れる雲が性急に過ぎていくのは時間の流れを示すのだろうか。
僕は無性に心細くなったので、隣の彼の左手に指を絡ませた。指先に動揺のような痺れが走る。

「グリーン」

声をかけると彼は泣きそうに顔を歪めた。
右手への握力がぐっと強まる。僕も少し強めに握り返す。
きっと僕らは色んな事を経験して色んな事を感じ取って変わっていく。それが世間で言う成長とか、大人になるとか、そういった類いのものなのかもしれない。みんなそうやって年をとって行くのだろう。避けては通れないのだろうけど、実感しつつあるそれに何故か心が締め付けられた。

レッド。
とグリーンが囁くので、
グリーン。
と彼に呼吸を合わせた。

全てが変わっても、僕らはもう少し今のままで。
なんて、
大人になりかけの僕らはあの頃の僕らへ、ただひたすらに願うしかなかった。




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