※微学パロ




「何してるの?」

Nの顔がひょこりと覗いた。教科書の隙間から。
僕は今自室に籠もって絶賛勉強中だ。この一問だけ解けなくて小一時間は悩んでいるのだ。何だってお前がいる。

「ママさんが君なら部屋にいるって」

母さんも母さんだ。Nを友達と紹介したらこれだ。あらN君いらっしゃい!ブラックなら部屋に居るわよ。これが関の山。

「クッキーと紅茶で良い?だって」

Nの手から丁寧にトレーが置かれる。これもお決まり。お前はうちの住人か。しかもさっき母さんと仲良く話してただろ。何者だお前。
でも正直これは嬉しい。早速いただこう。熱い紅茶を口にするとこんがらがっていた頭が少し解けるような気がした。甘いクッキーも頬が綻ぶ。休息って大切だ。
Nを見ると部屋をきょろきょろ見渡しながらも優雅に紅茶を飲んでいた。手先はこなれていて大人びているのに目元は子供っぽくて少しおかしい。
初めて家に来たときはそれはもう子供っぽさ丸出しだった。あれは何?これは何?普通の子供ならわかるであろう事を彼は何もしらない。一つ教えてやる度に彼は顔いっぱいに笑う。僕もそれが嬉しかったのを覚えている。
ほんわかとした思考で満たされている所で僕は思い出す。

明日がテストだということを。

友達が家に来てる?知ったこっちゃないね。僕は今度こそチェレンに勝ってみせるのだ。生まれてこのかた、どうしたって勉強では奴に勝てない。そして思い出すのは奴の力一杯見下した顔。「ブラック…また僕の勝ちだね」鼻で笑う奴の生意気さといったら!
僕は手にしていた紅茶を隅に、ペンと持ち替え再度あの解けない問題へと挑む。何だろうとライバルには負けるわけにいかないのだ。ちなみに補習組のベルは棚に置かせて頂く。

「ブラックさっきから何してるんだい?」

若干存在を忘れかけていたNがずいっと僕と教科書に寄る。ああ忘れていたこの上なく気が散る。お前はテストとか無縁だろうに。
僕が本気でお帰り願おうかと思案したのとNが教科書を引ったくるのはほぼ同時だった。

「なにするっ」
「3」

僕の文句とNのそれが発せられるのも同時だった。
Nはつらつらと問題文を読み上げ方程式を並べそれをノートに書き出し整然と解答を導き出す。

「だから答えは3だよ。ブラックもしかしてコレに悩んでたの?不思議だなあ。すごくかんたんだよ。」

僕はこの日からNを専任家庭教師に任命した。




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