1回目は覚えていない。
随分と前の話で何の感情も持ち合わせてなくて、ただ純粋に体温を感じた。子供だったからか走り回ったからか、きっとやけに熱かったんだと思う。良い思い出。
それからは幾度となく。

記憶にある次と呼べるのは成長して旅に出て、お前がチャンピオンになってから。
ライバルだったし思春期だったし何より負けっぱなしで悔しかったし。こいつに触れるなんて想像もしていなかった。ガキの頃の思い出は最早戯れに過ぎなかった。最後の戦いから暫く経って俺も漸く少しは吹っ切れて、お前からだったと思う。
「ありがとう」という言葉と共に差し出されていた。
何が有り難くて何に感謝していて何の為のそれなのかは全くわからなかった。だけど、促されるように握りあったそこに感じたのは確かな何かだった。何かが何とは言えない。けどこいつとライバルで、こいつと一緒に競り合えてた事に妙に感謝したくなった。

それから暫く、触れる機会が増えた。
共有する時間が不思議と長くなかったから必然的だと思う。バトルして、タマムシなんかにちょっと遠出して、はたまた知らない土地で知らないモンスター見付けて追っかけて転んで笑って、マサラでたわいもなく空を見上げたりして。何となく触れ合う度にこいつという存在を感じていた。昔とは明らかに異なる感情に焦っていたのはお互いだっただろうか。奴はポーカーフェイスだからわからない。付き合いが長い俺でもわからなかったから、もしかしたらこの時沸き上がって自分だけだったのかもしれない。

けれどその次、キスをした時。
繋いだお前の手は知らない温度で慣れ親しんだお前じゃなくて、そこが心臓なんじゃないかってくらい張り裂けそうで、こんなにも大切な存在がこの世にあるのかと、幸せって決め付けたり定義したりするものじゃないんだろうけど、強く握りあったその手。何故だかちょっと、涙が出そうになった。
それから長い間こいつは消えた。

そして今。
冷たいお前の手に触れる。

「どこ行ってたんだ」「何してたんだ」「せめて連絡くらい」「どういう神経して」「何で何も言わず」「スカした顔してんじゃねぇ」「何でこんなに冷たい」「みんなが心配して」「俺がどれだけ」「何で」「ばかやろう」
言いたい事は山程あった。
ぶん殴りたいと思った。
けど、握りあったそこから伝わる温度に言葉とか順序とか細かい全ては飲み込まれてしまって、強く握ったそこにお前の握力も加わって、フラッシュバックする今までの体温。いつもここから感じていた存在。ありふれた中に気付かれたかけがえのない行為。願ってしまうこれからの体温。
全てが吹き飛んで、お前が口を開く前に、思わず目を閉じて俺は涙で震えた声を漏らす。カッコ悪いのは承知の上で。どうか。

繋いだこの手を離さないで。





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