(後藤)


嫌がる達海に洒落たスーツを用意して、ネクタイを結んでやる。近い距離で目が合い自分の鼓動が音を立てた。


「くるしいよ、ごとー」
「あ、ああ…ごめん」
「なんでお前が緊張してんの?」

少し的違いなことを指摘された。自分の疚しい感情に気づかれなかったことにホッとする。誤魔化すように自分も笑う。

控え室を出て関係者がバタバタと走る廊下を歩く。結構人入ってますよ、というスタッフの言葉に達海は空席ばっかりだったらどうしようかと思った。なんて呟いていた。


「後藤」
「なんだ?」
「あんがと」


まだ演奏も始まっていないのに満足そうな顔をして礼を言われる。達海を推薦して正解だった。才能があるのに、機会に見舞われないままの演奏者はこの世に幾らでもいるだろう。達海をそんな一人させたくなかった。


「うしっ、じゃあ行ってきまーす」

ヒラリと舞台裏で手を振って彼はステージに向かった。きっと、これで彼の技術も評価されるだろう。自分が一、音楽者として見捨てておけなかった才能。皆も分かるはず。

「頑張れ、達海」

俺は舞台裏からこっそりエールを送った。






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