「どうかしましたか?」

救世主。廊下をゆっくり歩いているとナイスタイミングで声をかけてきた杉江。クロは?と問うといつも一緒にいるわけじゃありませんよと笑われた。ぎゃーぎゃー騒ぐクロがいないのも丁度良い。

「足痛むんですか」
「うん。ちょっとね。肩かしてくんない?」

傍から見てもわかる引きずりながら歩く姿を見られてしまえばもう頼るしかない。今さら隠したって仕方のない事実。とは言ってもやはり選手たちにあまり見せたくないものではある。格好が悪いとかそんなことじゃなくて。


「部屋まで行きたいんだよね」
「しっかり診てもらったほうが…」
「大丈夫、大丈夫。いつもこんな感じだから」


久しぶりに痛みは来たけれど、と付け足した。
杉江は心配した表情で近寄ると、達海の腕を掴んで肩に回す…と思ったら、しゃがみこまれて乗って下さい、なんて、ええっ!?


「おんぶ、って重くない?大丈夫?」
「じゃあお姫様抱っこにしましょうか」
「……いえ、」

そんな間抜けな格好を他の誰かに見られたらそれこそ笑い者だ。仕方がないのでそっと杉江に体重を預ける。


「軽いですね」
「ほんとう?」
「ええ、しっかり食べてますか?」


軽いと言われて嬉しくはないが、少しホッとした。選手に負担をかけるわけにはいかない。

「んじゃ部屋までお願い。レッツゴー!スギ!」

達海は杉江の首に腕を軽く回す。
杉江はそんな監督の子供っぽさにこっそりと笑った。






次の角を曲がれば到着、と思ったのに。

「なにやってんだ?」

ああ。困ったな。達海は顔をしかめた。今まで誰とも出会すことなくきたのに最後の最後で……。
何となく、一番見せたくないと思った相手に見られてしまった。運命とはそういうものだよな。達海はため息を吐くしかなかった。

「堺さん、お疲れさまです」
「ああ。てか、どんな状況?」
「監督が、足痛むらしいから送ったまでですよ」


杉江の言葉に堺の眉間に皺が寄る。

「診てもらったのか?」
「いや……別に、大丈夫だから」
「そう思ってると余計ひどくなるぞ」


選手に見られたくない一番の理由は、怪我での引退の悪いイメージを持って欲しくないことだ。特に堺は年齢的体力の衰えを気にしている節がある。スポーツマンとしての引退の文字をちらつかせるようなことはしたくなかった。直接影響はないにせよ、身近に足を壊して現役を早々引退した選手の見本がいる、っていうのも良くない。そんな達海の思いは選手たちは知らない。
ただ、堺は堺で目の前の監督を気に入っていた。助けてやろうという思いは堺にだってある。

「マッサージくらいした方が良いぜ。してやろうか?達海さん」


そんな提案を自らしてやるくらいに。






部屋に入り、ベッドに下ろしてもらう。ほら、足出してくれ、と言われるままに堺に差し出した。杉江は部屋をくるりと見渡し、足元に散らばるDVDに眉をひそめていた。堺は床に膝つき、俺の足に触れると、器用にマッサージし始めた。

「……っ、…堺、」
「痛いか?達海さん」
「ん、ちょっと、」


痛みに、きゅっとシーツを握って耐える。それでも解れてくる痛さにゆっくりと息を吐き出した。

「……っ…もっと、…優しく、出来ないっ?……」
「我慢しろよ、」


「……なんか、変な気分になってくるな」

杉江の呟きに、一瞬おいて堺が顔を赤くした。何に堺がそんなに過剰反応したのかわからなかったが、意識を怪我に集中してないとならなかったから聞けずに終わった。

「どうですか、少しは楽か?」
「サンキューな。いやー、助かった。堺、自分でもやってんの?」
「ええ、まぁ。一応。歳ですから」
「嫌味か。俺より4つも若いじゃん」


そうだよ。まだ若いよ。だからさ、お前らには出来る限り走り続けて欲しいのが監督としての願い。達海は密かにそう思った。



大切な人

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