目の奥がじりじりと熱さを増した。喉の奥がちくちくと痛みだした。気だるさに、何かを支えにしないとそのままずるずると落ちてしまいそうだった。風邪だな。これは。納得する自分が半分。もう半分は気のせいだと言い聞かせる自分がいた。その日は早めに布団に潜った。観ておきたい試合のDVDもあったにも関わらず。体のダルさと戦いながら観ても頭が働くわけはない。寝ちまえば明日の朝には良くなると信じて。
翌朝。布団から起きることの出来ない身体。困った。そうしたら有里が来た。達海さん練習始まるよっ!怒っている。いまいく。そう言おうと口を動かしたのに、掠れた声は、有里に届かなかった。もーっ!起きて!と布団が奪われる。襲う外気は冷たいのに、自分の熱が高すぎるらしく寒い、というより冷たくて気持ちがいい、と思った。そんな俺の調子にようやっと有里が気づいたらしく慌てて体温計を取りに行った。計ってみればなるほど、ダルいわけだ。数値をみて有里が騒ぐ。達海さん大丈夫!?大丈夫じゃない死ぬ。風邪なんかで死なないよ!……うん。ちょっと待ってて薬貰ってくる!部屋に散らばる資料をお構いなしに踏み荒し、出ていった。うるさい女だ。静かになった部屋で動かない身体に1人苛立つ。そうだ、と思いだしベッドの下に転がるペンと紙切れを垂らした腕で探りだした。
有里が持ってきたペットボトルの水とタマゴサンドと薬を受けとる代わりに先ほど書いたメモを渡す。
「これやらせといて」
有里のため息が聞こえた。







手を伸ばし、ペットボトルを手繰り寄せる。ごほごほと咳き込みながらキャップを開け、口付けた。横になりながら飲んだら、口の端から零れ、枕を濡らす。

「達海、」

嗚呼タイミング悪い。ギシリと開いた扉。後藤が顔を歪め近寄ってくる。行儀悪いぞ。そう顔に書いてあった。起き上がって飲め、と言われる。ほらやはり怒られた。ペットボトルを床へ落とし、布団を被る。またうるさい奴が来たものだ。

「なにか食べるか?」
「いらない」
「でも、食べないと」

頭だけを出した。後藤の手が伸びてきて額に触れる。

「熱いな」

後藤が苦笑した。

「なにあんの?」
「ツナおにぎりとメロンパンとクリームパンとみかん」
「みかん」
「おいおい、」
「食べる気しないんだもん」


ごそごそとビニール袋から取り出したオレンジ色の玉を後藤が枕元に置く。それを掴んでみると冷たくて気持ちが良かった。

「剥くか?」
「ん、」

後藤がみかんを奪って皮を剥き始めた。暫く待っていてもなかなか終わらないことに疑問を持ち視線だけ後藤の手元に向けた。

「もういいよ」
「え、あ、ああ」

皮についてある白い筋まで丁寧に剥く後藤に苛立って声をかける。知ってるか後藤。一番栄養があるのってお前が入念に取り除いている部分なんだぜ?


「ほら、」
「ん」

一粒ずつ口元に運ばれるみかんをパクリとくわえる。なんだか親から餌を頂戴する雛鳥になった気分だ。

「おい、俺の指まで噛むな」

与えられるみかんと一緒に後藤の指まで口にくわえたら怒られた。

「………達海?」
「ちゅーして」

唇を突きだしてねだる。赤く染まった後藤の顔がゆっくりと近づいてくる。

「………ン…っ…」

すぐに離れようとした後藤の首に腕を回して抱きよせる。今度は舌を入れてきてくれたから、自分も絡めた。喉の奥の痛みをキスで誤魔化したかった。唾液が混じり合う。口内のぬるりとした感覚は、思った通り痛みを忘れさせてくれた。


「これで俺に風邪が移ったら怒るからな」
「そんときは俺が面倒みてやる、って言ったら?」
「………ホントか?」
「やっぱ、めんどくさそう」


ニヒヒ、と笑うとくしゃりと髪を撫でられた。

「もう一度寝ろよ。早く治してもらわないとな、監督?」
「うん。了解ー。GMも監督のお世話ご苦労様でーす」


瞼を閉じた。やはり目頭がじりじりと熱い。知らずして涙が溢れる。そんな俺の頬にキスを1つ落とすと後藤が立ち上がる。行くの?と呟いた俺に後藤が振り返った。

「仕事、まだあるんだ。また戻ってくるから」
「キライだ。後藤なんて、キライ」
「ごめんな?必ず夜来るから」
「………死んでるかもよ?」
「風邪なんかで死ぬわけないだろう」
「違う。寂しくて」


おいおい、仕事に行けなくなるじゃないか。いいじゃん行かなくて。わがまま言うなって。
後藤が困った顔をする。ごめん、いってらっしゃい。そう言うや否や俺は布団を被った。


「すぐに戻ってくるよ。心配で仕事が手につかなそうだ」


俺に言ったのか、独り言だったのかわからない。後藤が苦笑した。それからガチャリと扉が閉まる音。行っちゃった。俺は後藤が戻ってくるまでもう一度寝ようと思う。




どうやら病気みたいです


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