ぞわり。身体の中に何かが駆けるような不思議な感覚に襲われる。それは身体全身にまわったかと思うと次に胸の鼓動を速くさせる。タッツミー。心の中で強く叫んだ。次には自分の耳に自分の声が入り込んだ。タッツミー。彼の姿を眼で追ってしまう。例え、ボールが彼の足元になくとも。芝を自由に駆けた(否、相手を出し抜いた)後、ゴールエリアでは再びボールが彼の元へと帰ってくる。そして、弧を描いたカーブはゴールキーパーの手に触れずしてネットを揺らすのだ!Meraviglioso(素晴らしい)!思わず感嘆の声を上げるほどだ。スポットライトがまるで彼に当たっているかのよう。でも勘違いしてはいけないのは、決して彼が舞台の主役をいつも独占しているわけではないということだ。例えば、FWが調子の良いと践んだ時。タッツミーは舞台の中心を譲り渡し、脇役にまわる。それはアシストであり、前線に上げるパスであり。仲間を繋ぐ役目を充分に果たしていた。

「スゴいよ、君は」

それしか言葉なんて出やしなかった。お気に入りのソファに高揚した身体を預けた。息を吐く。

セリーやバッキーたち若手とGMとの会話を耳にしたのは偶々だった。甚だ興奮して話していた内容に「監督」という言葉が聞こえてつい耳を傾けた帰り際。GMにお願いして彼らは10年前の監督の現役時代のビデオを見せてもらったらしい。ナッツの馬鹿などは、大声を上げてタッツミーを絶賛していた。ボクも観てみたかったなぁ、なんて声をかけて近づけば、是非観るべきだ!と力説されて押し付けられたビデオテープ。勢いあまって持ち帰ってきたのだけれど、一昔前のビデオテープなんて再生出来る機材が揃っていなかった。観れないじゃないか。でもタッツミーのプレーを観たい衝動は押さえきれなかった。仕方なし中古のデッキを購入。タッツミーが騒がれていたことはほんのり記憶に残っているが如何せん、当時の自分には到底関係のないことだったので、タッツミーのプレーを本格的に観るのは実際これが初めてだった。画面に映るタッツミー。若いなぁ。可愛らしいね。そんな感想から一転、悪戯に相手を弄ぶトリッキーなプレーの数々には、身震いさせられてしまったのだった。



→2


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -