「―――わぁっ…」

ピキピキと音を立ててクザンさんの手の平に小さな氷の花が咲いた。
見た事が有る様な無い様な花は何枚もの薄い氷の花弁が光を集めとても綺麗に輝いている。
その茎を折って何も言わずにクザンさんは私の前に置いた綺麗な硝子細工の花瓶に挿すと顔を背けてしまった。

「きれい…ありがとうございます」
「うん。良いって事よ。それより、あれ、あれだよ…あーっと…」

何だっけ?と何時もの台詞を言って頭を掻くクザンさんにくすくすと笑みが零れる。

「(忘れた“ふり”をするなら耳が見えない様にしないとダメですよ)」

腕を伸ばしちらりと赤く色付く耳を癖っ毛の中から覗かせれば「ちょっと、」と焦った声が聞こえた。
すり、と指でなぞれば大袈裟に肩を跳ねさせたクザンさん。
私よりうんと年上なのにどうしてこんなに可愛く見えるのだろうか。

「素直になってくれてもいいんですよ?」「えー、俺みたいなおっさんがそんな事したって気持ち悪いだけでしょーに……」
「そうでしょうか。少なからず私は可愛いと思いますよ」
「あらら。firstちゃんってば悪趣味ね」

クザンさんの大きな手が私の手を掴むと耳から遠ざけられ膝へと置かれた。
大人の男って手をしてるなー、と思いながら見詰めていると咳払いが聞こえ目線を前に向けた。
未だに赤い耳と、耳と同じく染まったこけた頬をしたクザンさんが私を睨む様に見詰める。
そんな熱い目で私を見ないでください。

「……はぁ。俺をこんな風にさせるのってfirstちゃんだけだよ?」
「あら嬉しいですね。私だけのクザンさんって感じで」
「そう考えちゃう所が本当、凄いよねぇ」

溜め息を吐きながら苦笑するクザンさんに私もつられて笑う。

「ところで、私にこんな素敵なプレゼントをして終わりにしようとしてませんか?」
「げっ。まだ覚えてたの?記憶力がいーねぇ」
「ふふふ。日付が変わる前にどうぞ」
「あー…もうそんな時間?経つのが早い早い」
「ほらほら。早くしてください!」
「ん。firstちゃん……―――」

俺と死ぬまでダラダラしませんか?
ふふ、よろこんで!