「泣きたいときに泣けないのはつらいことだな」
向かい側に座る跡部が急に言いだしたものだから、何事かと目を大きく見開く。
「急にどうしたの」
「いや、そうではないのか」
跡部にも泣きたい時があるのかと思ったのだが、返事の答えになっていない返答が返ってきた。
「まあ、そうだとは思うよ」
「そうか」
私の返事をどう捉えたのかよくわからないが、一瞬視線をテーブルに向け、紅茶に口を付けた後、跡部は続けた。
「田内は泣きたい時は泣けばいい。その時は俺が田内の傍に飛んで行って、周りからお前が見えないように隠してやる」
急に何を言い出すのかと思ったが、そう言った跡部の表情は混じり気のない笑顔を向けていたものだから、私も思わず笑ってしまった。