「跡部は今までにもう消えてなくなりたいって思ったことない?」

放課後、生徒会室で資料を作成していたら、ふと上の言葉のことを考えて、少し離れたところで作業をしている跡部に聞いた。

「あーん?そんなこと考えたことねえな」

視線をこっちに向けることなく、完成している分の資料に目を通していく跡部に私は一瞬目を向けたが、再び前のパソコンに戻した。

「田内はあるのか」

淡々と作業を進めながら、会話を続ける。

「うん、一瞬だけど何回か」

もちろん本当に消えてなくなりたいとか考えたわけではないけど、嫌なこととが続いてしまったときにふと頭に過ぎったことは何回かある。けど、それは一瞬にして消えてしまうわけだけど、人間嫌なことがあれば一度は考えたことがあるのではないだろうか。

「そうか」

跡部は資料を捲りながら、答えた。跡部はそんなこと考えたことがないのだろうか、とふと考えて聞いたことなのだが、そうかないのか。跡部のような人なら人知れず後悔や悲しみがあるのだろうが、私たちとは違うのかもしれない。跡部の言葉の後、しばらく会話が途切れる。特に続けたい内容の話ではなかったし、彼も興味はさほどないだろうと思ったからだ。

「なあ、田内」

作業も終盤にかかったところで跡部に呼ばれ、視線を向ける。

「さっきの問いについて考えていたのだが、やはり俺にはそのように考える理由がわからねえ」

跡部はさっきまで視線を向けていた資料から目を離し、こちらに目を向けていた。

「何があったのかは知らないが、どんなことがあっても今日があって夜を迎えれば明日が来る。明日が来て、学校に来れば皆がいて、皆の元気なところを見れる。そして、この部屋に来れば、田内に会える。俺はそれだけで嬉しいものだと思うが」

淡々と答える跡部が小さく笑みを浮かべるものだから、不覚にも顔をそらしてしまった。




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テーマ「人外ファンタジー」
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