ある日の放課後、保健委員の当番で保健室で先生と話していると、ガラリと保健室の扉が開いた。

保健室の先生が扉の方向に目をむけ、私は扉の方に体を返した。

「あら、跡部くん」

私たちの視線の先には扉に手を当てたままの跡部くんがいた。「今日はどうしたのかしら?」保健室の先生がそう声をかけると「いや、」チラッと私の方に視線を一瞬向けた後、気まずそうに口ごもる。

「先生、私少しトイレへ行ってくる」

立ち上がると、先生は頷いた。私が保健室を出るのとすれ違いに跡部くんが保健室に入って行く。きっと私がいると言いにくいことなんだろう。
トイレが終わってからも少し校内をぶらっと回ってから保健室に戻る。保健室に戻ると跡部くんが先生の前に座っていて、その間にもう一つ席が置いてあった。2人の中に入るのはおりにくいため、少し離れた窓際に座っておこうと思ったら、先生に隣に座るように促される。そーっと先生の隣に座って視線を上げると、跡部くんと目が合った。

思ったより距離が近い。

跡部くんとまったくと言っていいほど関わりのなかった私は初めての近さに一瞬怯んでしまった。遠くから見ても綺麗な顔だなと思っていたけど、近くで見たら目といい、顔だちといい、マネキンのように整っている。モテるというレベルじゃないなと、関心していると、隣でクスリと笑う声が聞こえた。

「みょうじさん、緊張しすぎよ」

先生の声に我に返る。

「いや、その、」とチラッと跡部くんを見ると「いや、構わない」と跡部くんは平気そうに返事をした。

「跡部くん、で少し横になっていく?」

「いや、大丈夫です」

「体調は大丈夫なの?」

「あーん?俺が体調を崩すわけ・・・あ、いや、大丈夫です」

一瞬堂々とした態度をしながら言ったが、何かを思い出したかのように言葉を止め、言い直した。「そう」とクスクス笑いながら言う先生。先生に失礼のないように言い返したのかな。

跡部くんは「じゃあ」と立ち上がり、背を向ける。「ありがとうございました」と保健室を出るときに先生に礼を言う彼を見ていると一瞬目が合った。軽く頭を下げると、跡部くんは一瞬口角を上げて、そして扉を閉めて去っていた。

「先生、跡部くん体調悪かったの?」と聞けば「ふふ、そうね」とそれ以上は話してくれなかった。





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