ふわりと感じた優しい気持ち

[明日練習朝までだから、もし空いてたら遊びに行かね?]

そう丸井くんが連絡が来た。丸井くんのことを知りたいと思っていたこともあり、遊びに行くことになった。丸井くんから練習が終わったと連絡が来て、待ち合わせの時刻と場所を確認する。丸井くんはいったん家に帰り、着替えてから来るとのこと。

待ち合わせ時刻より少し早く着き、壁に凭れながらぼーっと目の前を流れる人込みを眺める。彼氏と手をつなぎながら嬉しそうに話している女の子。私もあのように笑えるのだろうか。一瞬考えてしまった思いを振り払う。今から丸井くんと遊ぶのだから、楽しくないはずがない。今日はとりあえず楽しもう。

「ごめん、待った?」

「ううん、少し前に来たばかり。丸井くんも部活お疲れさま」

「サンキュー。とりあえず、どっか店入ろうぜぃ」

私服に着替えた丸井くんはいつもみる制服やユニフォーム姿とは違ってカジュアルだ。けど、普通に格好いい。きっと丸井くんのことだからどんな服も着こなすのだろうなと思いながら、丸井くんおすすめのお店に入る。

「お昼遅くなってごめんな」

「ううん、丸井くんこそおなか減ってるでしょ?」

「もうペコペコ」

表情を崩して、へらっと笑う丸井くんに私も思わず表情を崩す。丸井くんは表情が豊かだと思う。楽しいことは楽しそうに話すし、嫌なことは表情を隠すことなく不機嫌に話すし、今だってご飯をとてもおいしそうに食べている。表情がコロコロ変わる丸井くんに自然と私も表情を崩れる。

ご飯を食べた後、丸井くんと街をぶらりと歩く。私が雑貨屋に入りたいというと、「入ろうぜぃ」と言いながらも、入ってから「女子ってこういう店好きだよな」と言った。
嫌だったのかなと思ったけどそういうわけではなさそうで、

「いや、俺こういうのよくわかんねえんだけど、よく女子ってこういう店入りたがるじゃん?やっぱり男子とは違うんだなあと思って。赤也とかジャッカルとかとだったら絶対こういう店はいらねえし」

「たまに男の人一人で入ってくるところみるけど、確かにあまり見ないかな。男の人同士で入ってくるのは少し勇気いるかも」

けど、やっぱり丸井くん女の子と色んな所に行っているのだなぁと先ほど言葉で考える。確かに女の子がこういう店入りたがりそうだもんなぁ。私友だちと遊びに行っても一緒に入ってそう。そう思うと自分が普通すぎて少し笑ってしまう。

「けどさ、みょうじさんはこういう雰囲気似合うよな」
「え?」

少し離れたところから聞こえた声に振り返る。背中を向けている丸井くんは何かを手に持っていて、「ほら、これとか」と私に向けたのは、変な顔をした鬼の置物だった。

「えー、どういう意味?!」

丸井くんの近くまで行き、鬼の置物を間近で見るが可愛いとは言えない。

「冗談だって!」

「もう!」

笑う丸井くんから顔を背ける。
「ごめんって。けど、こいつ可愛いだろぃ?」ともう一度鬼を見せてくる。

「可愛いけど、可愛くない」

どっちかというとぶさカワという分類に入る。

「ごめんって」

拗ねる私に丸井くんが笑いながら言った。謝る気が全く見られない。

「けど、俺はこいつ好きだぜぃ?」

目を細めて笑う丸井くんの顔をもう一度見た。もう...こういうところがきっとモテるんだろうな。

 なんだかんだ言いながら丸井くんはさっきの置物が気に入ったようで購入し、店を出た。

「家に帰ったら弟たちに見せてやんねぇと」

「笑われるよ?」

「これ俺の彼女って」

「もう!」

そう笑う丸井くんを見上げて、軽く腕を叩く。そう言われたら弟たちはどのような彼女を想像するのだろうか。小さいって言っていたから、表情とかというより、まず鬼のような想像をされるような気がする。

「みょうじさん、はい」

悶々と考えていると声をかけられた。丸井くんは手を差し出していて、「手繋ごうぜぃ」と話す。差し出された手を触るのに躊躇する。いや、間違ってはいないのだけど、なんだか恥ずかしい。確かに付き合っているなら当然の行動なんだけど、いざ繋ぐとなるとこんなに照れるものなんだなぁと固まる。そう私の手が小さく動いていたのだが、しばらくすると丸井くんが強引に繋がれた。

「もう、早く行こうぜぃ」

腕を引っ張り歩き出したのにつられ、私も歩き始める。その後しばらく話せなくなった私を見て丸井くんが「手繋ぐの嫌?」と聞いてきた。

「いやとかじゃないんだけど...恥ずかしい」

「ははっ、可愛い」

「もう!丸井くんは慣れてるかもしれないけど、こういうの私慣れてないの!」

「いいだろぃ。この方が付き合ってるっぽいじゃん。というか、手小さすぎじゃね?」

「丸井くんが大きいんだよ」

「いや、みょうじさんが小さい」

そんな言い合いをしながら歩く。しばらくすると手を繋ぐのも慣れてきて、周りの店をちらちら見ながら歩く。しばらく互いに何も話さない状況が続いていたが、そんな雰囲気の中周りの雑音に混ざって会話とは言えないぐらいの小さな声が聞こえてきた。え?と丸井くんの方に目を向ける。

「ん?気になる店あった?」
「え、いや、ううん」

視線を元に戻す。

「...よかった」

声が小さかったからはっきりとは聞こえなかったけど、確かにそう言った。
どういうことだろう。今さっきは話していたわけではないから、私に向けた言葉じゃなさそう。んー、と今日のことを考えているうちに気づき、丸井くんの方を見た。

「ん?どうした?」

首をかしげて問う彼に思わず笑いかける。

「は?なんだよぃ」

訳がわからず聞いてくる彼の問いには答えず、視線をそらす。

「なんだよぃ。言えよ」

手を引っ張ってくる丸井くんだけど、声は笑っていた。
きっと丸井くんは私が気を遣っていることに気が付いていたのだろう。そして、丸井くんなりに私を解してくれていたのではないかと思う。あの雑貨屋でのやりとりやさっきの店を出てからのやりとりも。もしかしたら、待ち合わせしてあった時からそうかもしれない。今日丸井くんと会ってから、ずっと笑っている。私はなんて馬鹿なんだろう。私は慣れてなくて、丸井くんが慣れていると思い込んでいたなんて。丸井くんだって気を遣ってくれていたのだ。気まずくならないように、私が笑うようにしてくれていたのだ。

何も言わない私に諦めたのか、一息吐いた丸井くんにもう一度目を向ける。

「なんだよぃ」

「ううん、丸井くん。ありがとう」

「は?」

「ううん、行こう」

「ほんとなんだよぃ!」

丸井くんを引っ張るように先に歩き始める。「意味わかんねぇ」と後ろから声が聞こえるけど、理由は伝えない。ただ私が最後まで楽しく一緒にいることが、彼にとって一番うれしいことなんだと思う。振り返って丸井くんに笑いかけると、丸井くんの頬も緩んだ。



「ほんと、家まで送るって」

「ううん、まだ明るいしいいよ。丸井くんこそ部活で疲れてるでしょ?帰って休んで?」

「大丈夫だって」

そんな押し問答を繰り返した後、丸井くんが折れた。

「今度は絶対送るから」

「わかったって」

まだ拗ね気味の丸井くんに苦笑いを返す。

「気を付けて帰れよぃ」

「うん、ありがとう。丸井くんもね」

「俺は何に気を付けるんだよぃ」

「途中でスイーツ店入らないようにね」

「・・・それは難しいぜぃ」

視線をそらす丸井くん。

「今日はありがとう。楽しかった」

「ああ、俺も」

「じゃあ、また学校で」

丸井くんの手を放し、手を振り背を向ける。少し歩いた所でまだ丸井くんが動く気配がせず、振り返った。まだ丸井くんは立ち止まったままこっちを見ていて、もう一度手を振る。すると丸井くんも笑いながら手を振り返してくれた。再び背を向けようとした時、丸井くんに名前を呼ばれる。


「帰ったらまた連絡するから」

大きな声で言った丸井くんに、一瞬びっくりするも笑みを浮かべる。小さく頷き返したのを確認した丸井くんは背を向けて歩き始めた。その背中をしばらく眺めた後、私も帰路についたのだった。



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