広がる嘘

「とりあえず、連絡先登録よろしく」

そう言って電話は切れた。慌ただしい一日が過ぎ、少し浮足立ちながら家に着き、ちょっと興奮した状態で眠りにつく。しかし、次の日待っていたのは、今日以上に騒がしい一日だった。

「丸井くんと付き合い始めたって本当?」

昨日冗談で話していた友だちも私に騒がしく聞いてくる。いろんな人の話を聞いていくと、朝丸井くんが練習の時に仲間に聞かれた時にはっきりと付き合い始めたと言ったらしい。それから皆冗談と思っていたが、本当に付き合い始めたとびっくりして私と丸井くんに同じ質問が何回もされている感じだ。休み時間になるたびに色んな人が来て、同じような答えをして、予鈴が鳴ったらふーっと一息ついて、そんな休み時間を繰り返す。ふと、丸井くんの方をみると、彼も同じような状況みたいで声に出さず笑う。すると、丸井くんも私の方を見て、目が合ってしまった。お互いに一瞬びっくりして目を開くも、その行動がおかしくて口元をゆるめる。そんな私たちを余所に、丸井くんの前に座っている仁王くんは興味なさげに机に頭をつけて寝ていた。


放課後、ホームルームが終わり帰る準備をしていると、机の隣に誰かが立つ気配がして見上げる。すると、テニスバックを背負った丸井くんが立っていて、目が合うと彼は私の隣にしゃがんでニカッと笑顔を作った。

「今日このあとなんか用事ある?」

「え、ううん、ないけど」

「今日、部活ミーティングだけの予定だからさ、一緒に帰らねえ?」

ちゃんと話したいしさ、といつも遠くで見ていたアイドルスマイルで間近で言われ、照れくささを隠しながら頷く。

「じゃあ、終わったらまた連絡する」

立ち上がって教室から出て行ったドアを見つめる。本当に付き合い始めたのだなぁと、しばらくしてから椅子に座ってぼーっと考えていた。



図書室で宿題をしながら、丸井くんを待っていると携帯が光り、[終わった。今どこ?]と画面に表示される。図書室にいることを伝えて、帰る準備をし始める。まだ勉強をしている生徒たちを横目に立ち上がり、図書室から出てテニスコートの方へ向かう。靴を履き替え、コートの近くまで行くと、騒がしい声が聞こえてきた。

「ほんとお前さっさと帰れよな」

「いいじゃないッスか!俺も丸井先輩の彼女見てみたいッス!」

「まじでうぜー」

丸井くんと丸井くんに絡んでいる後輩の子とちょっとめんどくさそうにその様子を見ている仁王くんを見つける。話しかけようか迷いながら3人を眺めていると、チラッと私に気づいた仁王くんと目が合い、丸井くんの肩を突き、私を指さした。

「あー!噂の彼女ッスか!」

丸井くんが私に話しかける前に後輩の子が大きな声で話しかけながら近づいてくる。

「うわー!なんか今までとはタイプが違うっすね!」

「ちょ、赤也、バカ」

「けど、今までの子より俄然タイプッス!」

物凄い近くでじろじろと見てくる後輩くんに少したじろぐ。

「ちょっと丸井先輩、これからお世話になるんスから紹介してくださいよ」

「なんでお前が世話になるんだよ」

「だって丸井先輩の彼女だったらこれから一緒に遊びに行ったりするかもしれないじゃないッスか」

「お前と行くか」

目の前で騒いでいる2人にどうしたらよいか考えていると、遠くで見ていた仁王くんがあきれ顔で近づいてきて、後輩くんの首根っこを引っ張った。

「帰るぞ、赤也」

「ちょっと仁王先輩、まだ彼女さんと話してないんスけど!」

「そんなもん邪道じゃ」

後輩くんの首根っこを引っ張ったまま歩き出した仁王くんに、「ちょっと離してくださいよ」と騒ぐ後輩くんが去っていくのを見つめる。

「なんかごめんな」

「いや、大丈夫だけど」

「悪い奴じゃねえんだけど、ちょっとバカで遠慮がなくてさ。けどまあ、可愛い弟みたいなもんだからさ」

やっと離してくれた仁王くんに後輩くんが絡んでいる姿を見ながら、目を細めて話す丸井くん。

「まあ、よろしくしてやって?」

その話し方はとても柔らかくて、私も笑いながら頷いた。



「丸井くんって3人兄弟なんだ」

校門を出て、学校や家族のことなどを話しながら駅へ向かう。

「それが小さくってさ、世話が焼けるっていうか」

「けど、確かに丸井くんってお兄ちゃんって感じする」

「そう?」

「さっきの後輩くんと話してるの見てるとお兄ちゃんって感じ」

「あー、確かに赤也はもう弟たちと同じみたいな感じだな」

前を向き、ハハと笑う丸井くん。

「そういうみょうじさんは兄弟いんの?」

「うん、2つ下の妹いるよ」

「じゃあお姉ちゃんだ」

「そうそう」

「下がいると大変だよな」

「確かに。騒がしいっていうか、時々わけわからないところで怒ってくる」

「まじで?俺のとこまだ小さいからなぁ。いつか大きくなって反抗期になったら俺泣きそう」

「ハハ、丸井くんお父さんみたい」

「だってまだ甘えてきて可愛いんだぜ。勉強してっと『遊んでー!』って」

「なんか想像できる」

「だろぃ?」

2人の弟に囲まれている丸井くんが目に浮かぶ。丸井くんの弟だから、とっても可愛いんだろうなぁ。

「また今度弟たちに会いに来てよぃ。きっと喜ぶからさ」

口元を綻ばせながら話す丸井くんは、いつも私が学校で見ているかっこいい丸井くんとは少し違って、優しいお兄ちゃんだった。


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