嘘をついたのは誰?
「・・・別にいいけど」
こういう流れになったことを振り返ってみる。
確か初めはいつもと変わらない休み時間を過ごしていた。昨日のドラマの話をして、話が飛んで、また戻って、帰りカラオケ行こうって話をしていた気がする。そんな話をしていたら教室の後ろの方が騒がしくなって、皆でそっちに目を向けると男子たちが騒いでいた。
「お前まじかよ、趣味わる!」
「うるせ、お前に言われたくねえし!」
どうやらエロ雑誌を見て騒いでいるらしい。大きく息を吐き出し、友だちの方に目を向けると皆同じような表情をしている。皆感じていることは同じらしい。「ねぇ〜」ありえないとでもいうように声を合わせて言う。皆がいる前で見ないで家で見たらいいのに。
「とかいうお前はどうなんだよ!」
「はあ?言うわけないし」
「卑怯だぞ!」
雑誌を見て騒いでいる男子を女子たちが横目に見ていると、
「おいおい、お前らうるせえぞ」
と、丸井くんがガムを膨らましながら入ってきた。
「何見てんだよぃ、って、お前らなぁ」
「なんだよ、丸井。お前だって見てんだろ」
「こんなところで見ねえよ」
「家では見てるんだろ」
「うるせぃ」
丸井くんが騒いでいた男子の中に入っていき、ますます騒がしくなったが、周りの女子たちはちょっと色めきだつ。丸井くんに続いて入ってきた仁王くんはそんな話を気にも留めず、自分の席に着いて、机に頭を付けて寝始めた。
「丸井はこの中だったら誰がタイプ?」
「はあ?言うわけないだろぃ」
「んだよ、かっこつけやがってー、言えよ」
「言うか、バカ」
なんでだろう、あの中に丸井くんが入るだけで男子たちのちょっといやらしい話が明るく聞こえる。今まで怪訝な目で見ていた女子たちも、丸井くんたちの様子をみてクスクスと笑う。
「つーか、丸井ってどんなのがタイプなの?」
「甘いお菓子をくれる子」
「お菓子屋さんと付き合え!」
「それタイプっていうか、餌付けだろ!」
ゲラゲラ笑う男子に、女子も「確かに」とクスクスと笑っている。
「後は?」
「そうだなー、って言うか!」
「なんだよー!」
「そういえば、みょうじとかいいって言ってたじゃん」
丸井くんの隣にいた男子が言った言葉に騒がしかった教室が一瞬で静かになった。
が、しかし
「な、なに言ってんだよぃ!」
「前放課後男子たちで話していた時、このクラスだったらって話してたじゃん」
「お、お前!」
丸井くんが男子の口をものすごい勢いでふさいだ。
「なまえ、よかったじゃん!」
「タイプだって!ねえ!」
そして、周りにいた友だちが物凄い勢いで私を叩いてきた。一瞬静まっていた教室が一瞬で騒がしくなり、男子も女子も騒いでいた。
「みょうじ、だってよー、よかったなー!」
「・・・ッ」
男子の一人が茶化す様に声をかけてきて、恥ずかしさで何も返すことができない。
が、私の名前を聞いて丸井くんが私が聞いていたことに気が付き、目が合った。真っ赤なまま何も言わない丸井くんはちょっと気まずそうに目を反らす。
「そういえば、名前も前、丸井くんのことかっこいいって言ってたよね!」
「そうそう!」
「ちょ、・・バカ!」
急に何を言い出すのかと友だちの肩を叩いた。
そういえば、前にそんな話をしたような気がする。けど、あれはあまり考えずに言ったことだったのに、こんなところで話に出されるとは。
友だちの発言に教室が色めきだし、私は恥ずかしさから何も言えず、居た堪れなかった。
「もう、付き合えばいいんじゃね?」
「はあ?何言って」
「だって丸井今彼女いねえだろ?」
「そうじゃん!付き合っちゃえよ!」
「そんな簡単に言うなよ」
「なまえ、丸井くんいいじゃん!付き合っちゃえ!」
「ちょっと、何言ってんの!」
「こんなチャンスこれからないって!」
「バカ!」
「みょうじ、丸井とかどうー?」
向こうから声をかけられ、パッと丸井くんと目が合う。「いや、その、」と言い淀む。
「いいじゃんなまえ!付き合っちゃえ!」
「丸井くんはー?」
勝手に丸井くんに声をかけた友だちの返事に
「・・・別にいいけど」
視線を反らしながら顔を赤くした丸井くんが答えたのだった。
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