この花束は見えない方がいい
それは一緒に駅に向かっている途中のことで、いきなりのことだった。
「ねえ、みょうじさん。俺ら別れた方がいい?」
いきなりの出来事で進めていた足が思わず止まる。きっと今の私の表情は私が思っている以上に滑稽なのだろう。そんな私を見て、隣で歩いていた丸井くんも立ち止まって、眉を下げて悲しそうに笑みを浮かべていた。いつも楽しそうな表情ばかり見ていて、丸井くんのそんな表情をこんな間近で見るのは初めてだった。どうしていきなりそんな話になったのかわからない。けど、きっと丸井くんの態度を見る限り冗談で言っているわけでないのだろう。
「いや、ごめん。こんな言い方悪いよな」
そういって一瞬視線を私から外したが、再び戻して丸井くんは言葉を続けた。
「みょうじさん、別れよっか」
次は向かい合って、はっきりと言われる。
「いきなり、どうしたの?」
しばらくどう話せばいいかわからなかったが、やっと発せた言葉はこれだけだった。私の言葉に丸井くんもしばらく返事がなかったが、少し経ってから話しにくそうに私から視線を外しながら答えた。
「みょうじさん、仁王のこと好きだろぃ」
出てくると思っていなかった言葉に目を見開く。私の反応を窺うように顔をあげた丸井くん。
「そうだろぃ?」
「なん、で」
「2人のこと見ててわかったよ。2人とも俺の近くにいるじゃん。わからないわけねーって」
自傷にも似た笑みを浮かべながら丸井くんは話す。
「いや、最初は勘違いかなって思ったんだけど、仁王って初めは話しかけにくい感じするじゃん。だから、みょうじさんもそうかなって思っていたんだけど、やっぱなんか違うんだよな、他の男子と。それに、さ、仁王も・・・」
そこで言い鈍った丸井くんは、首の後ろを摩り、言葉を詰まらせながら話した。
「仁王もさ、みょうじさんのこと、好き、みたいだし、」
そう言って、完全に視線を下に向けてしまった丸井くんを私が凝視する番だった。え..、どういう・・・。
「わかんねえわけねえじゃん。いっつも同じクラスで部活も一緒にいたんだから、あいつがいつもと違うってそれくらいわかるって」
だからさ、別れよう
下を向いたまま、話し続ける丸井くんの言葉に、反応を返せない。
「そしたら、みょうじさんも仁王もさ、俺のことなんて気にしせず一緒に居られるし」
「まるい、くん」
「あ、大丈夫だから。別に2人のこと妬んだりしてねえし、つーか逆にすっきり?というか、よかったなというか、だからさ」
「・・・ごめん」
「いや、俺こそごめん」
「・・・」
「それにさ、まだよかったんじゃね。まだ軽いうちでさ。お互い本気になる前の方がつらくならなくていいじゃん?・・・まだ本気じゃなかったしさ」
そう言った後やっと顔をあげた丸井くん。
「みょうじさん、今までごめんな。ありがとう」
そう言って、背を向けて立ち去っていってしまった丸井くんに私は何も声をかけることができなかった。
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