偽りと真の言葉

今日は部活が早く終わるかもしれないため一緒に帰れそうと、部活前に丸井くんから伝えられ、先に部活を終えた私は部室で待っていた。しばらくすると丸井くんから連絡が来て、待ち合わせ場所に向かった。下駄箱で待っていると、着替えを終えた丸井くんが足早にやってきた。

「わりぃ、ちょっと出てくるのに手間取っちゃって」

「急がなくても大丈夫だったのに」

「いやそれがさ、とりあえず帰ろうぜぃ」

スッと差し出された手に私も手を繋げると、自然と歩を進め始めた。

「みょうじさんのところは早めに終わってた?」

「んー、1時間ぐらい前かな。その後友だちと話したりはしていたけど」

「だよなー。俺ももう少し早く出れるはずだったんだけど、赤也が絡んできてさ『新しくできたクレープ屋さん寄っていきましょうよ!』とか言ってきて、行けねえっつってんのに、しつこくてしつこくて」

「別に私のこと気にしなくてよかったのに。一緒に行ってもよかったし?」

「じゃなくって、んー、なんつーかさ、2人で帰りたかったっていうか」

「え」

「いや、だから、赤也とかはいつでも帰れるけど、みょうじさんとは部活もあるしそろってなかなか帰れないからというか、その、2人で帰りたかったんです」

普通に言おうとしているけど、いつもより少し早口で少し照れている丸井くんに頬を緩める。

「うん、そうだね」

「・・・ん、行こっか」

一瞬立ち止まってしまったが、表情をごまかすように丸井くんに手を引かれ、再び歩き始めた。








「あっれー?丸井先輩じゃないっすか!」

丸井くんがケーキ屋に寄って行きたいと話すため、店に入ってケーキを選んでいると、店のドアが開く音がした。カランとドアが開く音と同時に、後ろから明るい声が聞こえてきた。

「ゲッ」

「ちょうど先輩たちと何か食べたいなーって言ってたところなんスよ!」

「わしは言っとらん」

「私も言っていません」

「つーか、言ってたの赤也だけだろ」

「なんなんスか、先輩たち連れないっすね。まあいいじゃないっすか!丸井先輩がちょうど居たし!」

「丁度ってお前な、つーか赤也お前クレープ食べに行きたいって言ってただろぃ。なんでここにいるんだよ」
「丁度ケーキ食べたいなーって思って」

「ほんと意味わかんねえ・・・」

振り返った私たちの目の前に切原くんがやってきて、その後に仁王くん、柳生くん、桑原くんが店に入ってきた。どうやら皆もケーキを食べに来たようだ。

「赤也がすまんの」

「え、ううん、大丈夫だよ」

「止めようと思ったのですが、その時にはもうドアを開けてしまっていて。すみません」

「本当大丈夫だよ。丸井くんも楽しそうだし」

「あれのどこが楽しそうなんだ?」

私たちの前で切原くんに絡まれている丸井くんは口では嫌がっているが、本当に嫌がっているというより仕方ないなという態度で、弟に絡まれているお兄ちゃんのようだ。


「お前らちょっと気を遣って違う席行くとかしろよ」

「なんでっスか!別にいいじゃないですか、せっかく一緒になったんだから、一緒に食べましょうよ!」

私たちが先に席について食べていると、隣のテーブルに切原くんが座ってそれに続いて3人もテーブルついた。そして離れていたテーブルをくっつけたため、2人掛けであったテーブルが6人掛けへと変わった。

「つーか、仁王席変われ」

「いやじゃ、めんどい」

「そうっスよ!俺だって彼女さんの隣に座りたいッス!」

「バカ也は黙れ。というか、赤也は俺の隣からも離れろ」

「なんでッスかー?!」

「お前は絡みすぎ」

「騒がしいですしね」

「いらんことも言うからの」

「はー?どこがッスか?俺は素直なだけでなんスよ!」

目の前でわいわい騒いでいる皆の様子をみながら、ケーキを一口。口の中に甘く、だけど少し酸味の効いた味が広がった。やっぱりショートケーキはおいしい。目の前の丸井くんは季節のケーキを選んでいて、切原くんに一口くれるように言われて、ケーキを遠ざけていた。

「別にいいじゃないっすか!俺のもあげますよ!」

「お前のはもらうけど、俺のはあげねー」

「はあー?」

言い合っている様子にクスリと笑う。ほんと兄弟みたいだ。


「・・・すまんな」

ボソッと斜め上の方向から低い声が聞こえてきた。声の方向に顔を向ける。

「デートの予定じゃったんじゃろ」

チラッと視線だけ私に向けて話す仁王くんは小さい声で続けて話す。

「いつも部活終わるの遅いからなかなか一緒に帰られんのにすまんのぅ」

「ううん、本当に大丈夫だよ。こうやって皆で食べるのも楽しいし」

「・・・はあ。けど、ブンちゃんは楽しみにしとったみたいじゃ」

「え?」

「おまんは思っとる以上にええ女じゃ。そこらへん分っとった方がええ」

「え、ええ?」

「・・・なんでもなか」

そう言った仁王くんは、ケーキに視線を戻し、一口ケーキを含んだ。

「・・・甘ッ」

「いらないなら俺もらいますよ!」

「やらん」

なんでッスかー?と仁王くんにそっぽを向かれた切原くんの声が遠くに聞こえる。さっき仁王くんなんて言った?え?どういう意味?私の頭の中は先程の仁王くんの言葉で少しパニック状態だ。丸井くんが一緒に帰りたがっていたということだけど、その後の言葉って、え?どういう意味で言ったのか、慰めてくれたという意味でいいのか、、


「みょうじさん」

「・・・え?」

「それ一口もらっていい?」

私の目の前まで体を乗り出してきていた丸井くんに「いいよ」と笑顔で返した。

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