この気持ちを知るのが怖い

「あれ?丸井先輩の彼女ッスか?」

部活が休みのため、HRの後少しの間、友だちと喋り、玄関で別れる。正門に向かっていると声をかけられた。

「ええーと」

「丸井先輩の後輩の切原赤也ッス!今日はもう帰るんスか?」

「うん、今日は部活休みなんだ」

見覚えはあるんだけどどこで会ったっけ?と考えていると、彼から自己紹介してくれた。そうだった。そうだ、前丸井くんと一緒に帰る時に会ったんだ。嫌な顔せず、笑顔で元気よく話してくる彼に思わず笑みが溢れる。

「切原くんは今から部活?」

「いや、俺は・・・追試ッス」

苦笑いをしながら返される。前のテストの英語で赤点を取ってしまったらしい。

「ほんとは俺だって部活に行きたいッス。けど、追試さぼったの副部長にばれたら、鉄拳をくらって部活どころじゃなくなるから」

これ内緒っすよ、と切原君は人差し指を口元にあてた。
それから部活の先輩たちのことを楽しそうに話す彼の話を聞いた。

「そういえば、丸井先輩とは最近どうッスか?」

「どうって」

「キスとかはもうしたんスか?」

「し、してないよ」

「えー!まだしてないんスか?!あの丸井先輩がまだとか信じられないっす」

「な何言ってるの!」

「だって丸井先輩って手が早いって有名じゃないっすか」

「何言って、っていうか切原君後輩だよね」

「そうっスよ。だから、今までの丸井先輩の彼女から色々と聞いたんスよ」

へー、あの丸井先輩が、と信じられないというように首をかしげている切原君を横目に私も考える。そっか、丸井くんってそうなんだ。いや、まあそうだよね、丸井くん今までいろんな彼女がいたと噂では聞いていたし、そうだよね。

「で、先輩はどう思ってるんスか?」

「え、何を?」

「だから、丸井先輩とのこと」

「え?」

「丸井先輩と」

「なーにしとるんじゃ、おまんは」

切原君に迫られるように何か問い詰められていると、離れたところから聞き覚えのある声が聞こえた。

「あ、仁王先輩」

「赤也、おまん追試じゃなかったか?」

「え、あ、その」

「追試さぼろうとしとるんか」

「そ、そんなわけないじゃないっすか」

「んで、ブンちゃんの彼女に迫って、これブンちゃんが知ったらどうするかのぅ」

「仁王先輩!」

「わかったなら、さっさと追試行き」

「は、ハイっす!」

のんびりと近づいてくる仁王くんから逃げるように切原君は走り去って行ってしまった。
「丸井先輩には内緒にしててくださいねー!」と一瞬振り返っていった言葉に、仁王くんは「はあ」と大きくため息をついた。

「赤也がすまんのぅ」

「ううん、ありがとう。そういう仁王くんは今から部活行くの?」

「・・・いや、」

「え?だって、今日は部活の日じゃ」

「···ま、そういうことじゃ」

「そういうことって、さぼり?」

「そんなもんかのぅ」

「もう...ちゃんと行かないと怒られるよ?」

「もう慣れとお」

「もう」

部活をさぼることに対して悪気なく言う仁王くんに小さくため息を吐く。けど、仁王くんって、テニスすごく上手って聞いたことがある。それでも上手なのは才能なのか、それともどこかで努力しているのか。きっと仁王くんのことだから、それは教えてくれないのだろう。
一瞬地面に向けた視線を彼に向ける。仁王くんは、丸井くんのように笑顔がよく出たり、表情が豊かでコロコロと変わったりして、男女問わず皆に人気なタイプではなく、不思議な雰囲気で何を考えているのかよくわからないけど、やっぱりかっこいいと改めて思う。
私の視線に、首を少し傾けた彼に、見とれていたことに気づき慌ててごまかす。

「に、仁王くんって、何気に優しいよね!」

「急になんじゃ」

「いや、だって、こんなふうに手助けしてくれたり、切原くんにもさぼらないように言ってくれてたし、この前だって」

「買い被りすぎじゃ」

「そんなことないよ。めんどくさそうにしてても女の子の話もちゃんと聞いてあげてるし、それに」

「少しは黙りんしゃい」

「···え」

誤魔化すように慌てて話していたため、初めは気づかなかったが、落ち着いてきた頃に彼の表情に気づき、言葉を詰まらせる。

「じゃあの、気をつけて帰り」

そういって私の頭に手を一瞬置いて、仁王くんはその場から去っていってしまった。さっき見た彼の表情は、耳が赤くなっており、照れくささを隠すように口元を手で抑えていた。
仁王くんが手を置いた所を自分の手で触ってみる。そこに彼の手はもう無いのに、いつもと感覚が違うように感じた。



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