あなたの気持ちに近づきたい
「みょうじさん、ちょっとこっちに来てもらっていい?」
昼休み、昼食を食べて友だちと話していると、離れたところで仁王くんと話していた丸井くんに呼ばれた。
「みょうじさんだったらどっちの方が好み?」
「え?」
「これこれ」
何の話かと思えば、雑誌のページを指している。
「いや、なんていうかさ、こういうのって聞かないで買う方がいいのはわかってるんだけどさ、どうせもらうなら好きなものの方がいいかなぁって思って」
ページを覗いてみると、女性用のネックレスが載っているページだった。
「い、いいよ。そんな気をつかわなくて。気持ちだけで嬉しいし、ね?」
「なんだよぃ、俺からのいらないって?」
「そういうわけじゃなくって」
「じゃあ、いいだろぃ?はい、その話は終わり。で、どれがいい?」
「本当にいいって」
「別にいいじゃろ。ブンちゃんがあげるって言ってるんじゃ。貢物と思ってもらっとき」
「貢物って、ひどくね?」
「事実じゃろ」
「うっせ」
そっけなく話す仁王くんにチラッと視線を移す。丸井くんより少し上側にある顔に少しドキッとする。前髪で少し見えにくいが、近くで見るとやっぱり綺麗な顔をしている。丸井くんと気だるげに言い合っている仁王くんを見ていると、一瞬私の方に視線を向けた仁王くんと視線がぶつかった。慌てて、床に目を向ける。
「いや、本当はブレスレットとかの方がいいかなと思ったんだけど、俺リストバンドしてるし、テニスの時に外さないといけないだろぃ?だから、ネックレスの方が付けてられるし」
「なんじゃ、ペアで買うつもりか」
「んだよ、仁王僻んでんじゃねえよ」
「僻んでない、呆れとう。というより、これペアあるん」
「あるある、ほら」
2人で雑誌をのぞき込んでいる様子を黙って見ている。
「みょうじさんならこれかこれかなと思ったんだけど」
「ブンちゃん、もう少し女の子の好みを知った方がええ」
「なんだよ、じゃあどれがいいんだよぃ」
「これ」
「はあ?仁王趣味悪くね?」
「ブンちゃんに言われたくない」
「あーもう俺らじゃやっぱり話になんないだろぃ。で、どういうのがいい?」
「いや、だから」
「はあ、おまんも素直にもらっとき。ブンちゃんが自分からプレゼントあげようとするなんて珍しいんじゃから」
「仁王何言って」
「いつも欲しいってせがまれてあげとるじゃろ。けど、おまんは自分から欲しがらんからブンちゃんが心配になって必死に考えとるんじゃ。じゃから、そういうことも考慮して今回はもらってあげればええ」
「ちょっ、仁王」
「ついでにおまんの好みも知れたら、今後のプレゼントの参考にもなるっちゅう思惑も含んどる。なあ、ブンちゃん」
「〜っ、あーくそ、つまりそういうこと、でどれ」
仁王くんに言い負かされ、押し付けるようにページを見せてきた丸井くんの顔は真っ赤で照れているのが隠せていない。私が雑誌を手に取ると、丸井くんは仁王くんの肩を叩いた。
「なんでみょうじさんの前で言うんだよぃ」
「言わんと話が進まんし、ブンちゃんプレゼント振られとったじゃろ」
「そんなのわかんねぇだろ」
「いや、絶対言い負かされとった。ブンちゃんはみょうじさんに弱い」
「うっせえ」
そんな二人のやり取りから視線を外し、雑誌に目を向ける。いまいちこういうのわからないんだよね。ネックレスって自分であまり買わないから、好みって言われても、んー。
ページを捲りながら考えていると、視線を感じたため、顔を上げる。
「決まった?」
真剣な目をした丸井くんと目が合う。目が合った瞬間、丸井くんの表情は崩れ、柔らかく笑った。
「ううん、そうじゃないんだけど。丸井くんはどういうのがいいの?」
「は?だから、俺の好みじゃなくてさ」
「けど、丸井くんも持つんだよね?じゃあ、私だけが決めるのは変じゃない?」
「いいだろぃ」
「これいつ終わるん。拷問じゃ」
私たちのやりとりに大きくため息をついて呟いた仁王くんのセリフに、丸井くんは「どういうことだよぃ」と絡んで、私は小さく笑った。
そのセリフの真意をわかっている者はここにはいない。
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